ほうさんのお国柄

企画参加用創作ブログ。絵は描けない。文のみ。お腐れ。色々注意。

サラトナグさんと奴隷さん 短

サラさんと奴隷さん1。短い。世界観的な。

 

 

 

「ねいねい、そこのおにーさん」

 

開けた草原に一本そびえる大きな木。その木陰で休憩をしていた荷馬車の主に、軽い調子で声がかかった

 

「おにーさん、ここからどこへ行くんだい。もし街の方に行くんなら、僕を乗せてくれないかい?お代は出すからさ」

「確かに街に行くが...いいのかい?精霊魔導士さんがこんなボロ車に」

「構わないさ。足が棒になるよりはいい」

 

見るからに分厚い黒いマジシャンコートに、背負った大きな布袋。旅をするには相応しくない格好と、この国では特に優遇される精霊の象徴である尖った耳。話しかけてきた青年は、ボロの荷馬車には相応しくない身なりだ。

 

「まぁ、こっちは盗賊じゃないなら乗せるのは構わねぇさ。街まで護衛してくれるだけでありがてぇ。乗んな!早速出発しようじゃねぇか」

「おお、気前がいいねぇおにーさん。奴隷さんかと思ったけど、もしかして商人さんかな?」

「ははは!いやいや、商人さんはこんなボロには乗らねぇさ!俺はあっちの村から作物を取ってこいって言われた奴隷だよ」

荷台を馬に引かせ、補修されていない道を音を立てながら進んで行く。時折揺れた際に漂う芳香は果実特有の甘ったるさがあった。

 

「ふうん、けど、傷みやすい果物を扱えるってことは、相当雇い主に信頼されているね?馬も上等だ。ボロ布も、通気性を考えてのことだろう」

「魔導士さんよ、煽てても何も出ねぇぞ?俺があんたに出来ることは、乗せていけるとこまで乗せていくことだけだ」

「はっはっは!なに、下心があったわけじゃないさ。ただ、君は将来何か大きな事をするんじゃないかと思ってねぇ...」

 

隣に座る荷馬車の主を、上から下まで品定めするように見る。何かを感じ取ったのか、荷馬車の主はぶるりと背筋を震わせた。

精霊の青年は、満足げににっこりと笑う。眼鏡の奥の瞳は黒々と光っており、イタズラでも思いついた少年のような輝きだ。

 

「もしも街まで無事に着いたら、君の雇い主から君を買い取ろう」

荷馬車の主は、ポカンと口を開いて唖然とする。奴隷は安い買い物ではない。ましてや、若い人間の男は、奴隷の中でも高額だ。

大抵一人で自給自足のなか生きる精霊が奴隷を必要とするケースはまず無い。まさしく、無駄遣いである。

「俺を?魔導士さん、からかうのはよしてくれ。見た感じ、奴隷が必要そうなナリじゃない。それに俺は森じゃなく街で暮らしたい。どうせ奴隷になるなら人間の奴隷の方が性に合うのさ」

頭をよぎったのは、魔術の生贄として、の奴隷。魔法にあまり明るくない人間にとって、得体の知れない精霊の奴隷というのは、恐怖感ばかりが襲う。

暗に断りの意思を伝えるが、精霊の青年は荷馬車の主が怯えているのが可笑しいのか。声をかけた時のような軽い調子で笑い、おちょくる様にニヤニヤと口元を歪ませる。

 

「おお、おお、そうかい。でもね、君の誠実そうな声色、利口そうな顔立ちに何か、運命的なものを感じたのさ」

グルグルと布を巻かれた右腕を上げ、奴隷の片頬を軽く撫でた。奴隷は動かず、じぃっと、互の目を見合った。

 

馬のリズムは崩れない。カタカタ。荷台が揺れる。魔法はかかっていない。しかし、時間が止まったかの様な静寂が確かに出来た。

手が離れる。奴隷の人間の呼吸が再開される。

清々しいほどににっこりと、精霊は笑った。

 

「君は、奴隷ではなく商人になったらどうかな。その客の一人に、必ず僕を入れてくれればいい。この国ではあまり一般的ではないが、投資、というやつだね」

「つまり...?」

「君は、自分の意思で僕から物を買い、それを街で売り捌けばいいってことさ」

ああ、生贄だとか取って食うだとか、そんなんじゃないさ、と付け足して、精霊は人間からの返答を待つ様に視線を寄越した。

「...すこし、考えさせてくれ」

「勿論さ。構わないよ。なぁに、僕は今直々に街へ出向いて売買をしているけれどね、それが手間だから君にやって欲しいのさ。それだけだよ。裏はない」

街まではまだまだ長い。のどかな平原が果てなく続く穏やかな日和。爽やかな風を感じる二人と一匹。甘い匂いが鼻をくすぐる。

 

「ははは、楽しくなってきたなぁ」

 

有能な商人と気まぐれな魔導士の出会いの話。

 

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これからサラさんはこの商人さんと数十年過ごすことになります。いつかこの商人さんもキャラにしたい様なしたくないような。

 

精霊には大抵の人間が逆らわないようにしている国ですが、教養のない奴隷だと喧嘩腰で向かっていったりします。

厄介ごとを起こすことなくやり過ごそうとした奴隷さんが利口であると判断し、あと顔が好みだったためスカウトした気まぐれなサラトナグさんでした。

 

奴隷さんは10代後半くらいのイメージです。