ほうさんのお国柄

企画参加用創作ブログ。絵は描けない。文のみ。お腐れ。色々注意。

本編2:サラとアレスのお仕事

 

昼間の日差しが葉に遮られ優しく射す。精霊の青年は一人、森の道を歩いていた。

 

 

青年はこの森に住む長命の精霊サラトナグ・ルーダー。湖のほとりの村への道を黙々と歩いていく。

黒いマジシャンコートに黒い外套。黒い髪に黒い瞳。光を反射させることなく、ただただ歩く。時折周囲を見渡しては、先程住処に現れた異形の姿を探す。小鳥の歌、木々の声の中に異質なものはない。

だが確かに、青年の目の前に通常では生まれることのないであろう異形が現れたのは事実だ。勘違いではないのだ。それが何を意味するのかはまだわからない。

しかし、青年は確実に嫌悪感を示し、危惧している。外目には人間で云う二十歳前後にしか見えないが、この国の歴史と共に生きたゆうに500歳を超えた精霊である。今までに様々な事例を見てきた彼だからこその直感かもしれない。追求すべきだ、と彼は考える。それが彼の意思か、はたまた大いなる母の信託かは彼のみが知るところであるが。

 

太陽が傾きうっすらと月の出る頃、サラトナグの視界に湖が映った。村というよりかは集落といったほうが近い程の小さな規模の集まりが湖畔にできている。

近づいていくと、見知った人間の青年が荷馬車の馬を撫でている光景が見える。

おうい、と声をかけ手を振ると軽く振り返す。住民と何やら会話をしていた様だが、それを切り上げて精霊を迎えた。

 

「やぁアレスト。奇遇だね。それとも何か用があってここへ?」

「久しぶりだな、サラ。用があって、だ。あんたにな」

 

二人は握手と軽い抱擁を交わす。アレストと呼ばれた人間は、中々に高い背丈としっかりとした体格をした、端正な顔立ちの茶髪の青年だ。年は25、6といったところだろうか。

 

「あんたが湖まで来るなんて珍しいな?引きこもり」

「まぁね。否定はしないが色々あるのさ。それに、もしかしたら君がいるかもと思ってね」

「あんたも俺に用があったか。そりゃ丁度いい。

あまり部外者には聞かれたくない話だ。少し離れるぞ。お時間いただけるか、明勲精霊サラトナグ」

「その呼ばれ方をする時は大抵厄介事なんだよねぇ、経験上。喜んで、商人アレスト」

 

馬と荷台を住人に預け、二人は集落から離れる。人気のない湖畔に腰を下ろした。茜に染まる水面を清い風が駆ける。光を湛えた虫達がちらほらと舞っていた。

 

「どっちから話す?」

「君からどうぞ、アレスト。お上からの指令だろう」

「その通りだ。

まず1つ。国から。今まで長く国に関わり貢献してきた精霊、ルートグラン・ルーダーが行方不明。今まで決まった住居にいたはずだが、何故かここ数ヶ月いつ訪問しても姿がないらしい。今は色んな精霊に代わりの依頼をして繋いでいるが、おかげで首都はてんやわんやだ。

あんた、知り合いだろ。ルートグランの居場所を知らないか?今は情報収集の御触れしか出てねぇが、その内捜索任務が出されるだろうな」

「ルートか。確かに知り合いだけど最近は会っていないね。でも、死んではいないだろう」

「根拠は?」

「彼も大地信仰の精霊だ。しかも強大な加護を持った。死んだらなんとなくわかるのさ。

彼程の精霊が死ねば、彼への加護が大いなる母へ戻る。僕は母のお気に入りだから、恐らく戻った力の一部位与えてくれるだろうからね。そういう兆しはない。生きてはいる。

でも、昔よりは弱くなってると思う。寿命が近付いているのを察して、何かを成し遂げに行ったのかもしれないね。そうでなければ...」

「何かに巻き込まれているか」

「そうだね。まぁ、探して損はないだろう。彼がいそうな場所をいくつか情報提供しよう。あとは王なり国なりでなんとかするよう答えておいてくれるかい」

 いくつか国内の地名を挙げ、それをアレストが紙にメモを取る。優先順位、何故その場所にいるかもしれないのか。居場所を知っているかもしれない人物の名前。事細かに説明をしていくが、最終的には情報の新しさには欠ける、と一言念を押した。

 

「このくらいかな。僕が知っているのは200年は前の彼だ。それからは見かけることはあれど会話は殆どしていない。気が合わないんだよね、彼とは」

「真面目で誠実な精霊だって街の奴らは言ってたぜ。なるほど合わないわけだ」

「君は僕をなんだと思っているんだい?失礼な口は塞いでしまうよ?若造」

「力で勝てないくせに、じいさん」

 

自分より高い位置にある若造の唇に、咎めるように指を当てる精霊。その手首を掴み、当てられた人差し指に噛み付く人間。

その返しに驚いたのか精霊は一度身体を跳ねさせたが、直ぐに愉快そうに笑い出した。

 

「ははは!この間までは揶揄っても睨むことしかできなかった若者がまさか噛み付いてくるとは!人間の成長は早いねぇ!」

「これでも処世術は身につけざるを得ないんでな。この程度、色気のある婦人方の誘惑と比べたら全然だっつうの」

「ははは、頼もしい限りさ。しかし、噛み付く相手は選びたまえよ、若造」

掴まれていない方の手で、ぱちんと指を鳴らす。アレストが何事かとそちらに意識を向けると、するりと首筋を何かが撫でた。

一瞬の間に、掴んでいたはずの細い腕から蔦が生えている。いや、正しくは袖口から続々と蔦が生え出て、アレストの身体に巻き付いていた。

「...はぁ。へぇへぇ、参りましたっと。いつ植えた?」

「この子は常に種子を僕の体に触れさせてあるからね。意思次第でいつでも、いくらでも。」

「そりゃいい勉強になった。あんたを殺すときは何も身につけていない状態の時だな」

「そういう事さ。殺されたくはないけどね」

「金に困ったら身包み剥ぐとするさ」

「そうなる前に僕が君を買ってやるさ。一晩いくらでね」

「生憎そっちの趣味は俺にはねぇよ?」

「色を好むのは悪い事ではないと思うんだけどなぁ。まぁ困ったら声をかけておくれ。君なら歓迎だ」

「あんたが言うと生々しくてゾッとするぜ」

 

目を合わせて笑みを交わす。仕切り直しだと言うように、蔦を戻し座り直した。

 

「2つ目。これは商人管理局からだ。

一月ほど前から、奇妙な品が出回っている。商人として登録されていない商人が、金持ち相手に街の隅で売っていたらしい。

現物は持ってこれなかったがよ...見たが明らかにおかしい。異常に小さいサターニアの眼球だ」

「おや、これの事ではないかな?そうかそうか、やっぱり知っていたか」

懐から、住処で見つけたウサギの眼球を取り出し、アレストへ渡す。受け取り、月の光で照らし、角度を変え強度を感じ、同じものだと結論を出した。

「これだ。どこでこれを?」

「今日の朝...朝じゃないか。昼に奇妙なウサギが出てね。その眼球さ」

「ウサギ...こっちでは物こそあったが、生き物は見つかってない。管理局もまだ知らないだろうな」

「ふぅむ。売られていたと言うことは、やはり突然変異ではないだろうね」

予想していた事ではあるが、恐らく作為的に生み出された物。それが主であっても副産物であっても、アンモラルなことが起きている可能性は否定できなくなってしまった。

サラトナグは考える。その様子をアレストは眺めるだけだが、アレストも思う所はあるのだろう。良い表情はしていない。

「...この辺りで何かが起きているかもしれないね。一度首都へ行こうか。きちんと御触れを頂いておこう。これからが楽になる。君も管理局にしばらく取引を休むと伝えておくといい」

「...薄々そう思ってはいたけどな。厄介ごとはごめんなんだが」

「僕も同じさ。なぁに、駄賃は弾むさ。足が欲しい。手伝っておくれ」

「仕方ねぇな。命の安全だけは頼んだぞ」

「任された。安心するといい、僕は守る方が得意だ」

「そりゃ頼もしい。明日出るぞ。とりあえず今日は寝るか。疲れた」

「僕も今日は沢山歩いて疲れたなぁ。明日はもっと疲れるんだろうけどさ」

「あんたは揺られるだけだろ...?」

 

暗い夜が彼等を覆い、月と星が照らす。

これから何が起こるのかはまだ、彼等に知る由はない。清く優しい泉の風が、彼等を見送った。

 

 

 

 

ーーー

奴隷さんことアレストさん登場。彼等は危うい関係な感じ。アダルティコンビです。

アレストさんの詳細はまた別記事で。

 

何が起こるのか、何を起こすのかはまだちょっと決めあぐねています。

前回から打って変わって突然三人称視点になりましたが、個人的にはこっちの方が好きです。書きやすいのは人物目線なんですが、余計なこと書いてしまうのが悪い癖

 

早めに続きを書いていきたいです。ちなみにこれが本編です。一応。