ほうさんのお国柄

企画参加用創作ブログ。絵は描けない。文のみ。お腐れ。色々注意。

【学園線】おじじが惚気てるだけの変なやつ

高校卒業後アレスト君がルートおじじのお家を出ていった後のもしものお話。相変わらず作品になってないけど、おじじの惚気が書きたかった。そんだけ。ルートサラはね、幸せな気分になるんだよ...本当だよ...うふふ...

 

自然にホモだし当然のようにホモだからそこは言わずもがな。

 

 ーーーーーーーーーーー

 

物音が限りなく少ない、深夜。走っている車は己の物位で、歩行者も勿論見当たらない。殆ど過ごす事のない我が家のあるどこからどうみても立派なマンションは、そんな時間でも一応管理者が在中している。お疲れ様ですと眠そうにかけられた声に、お互い様だと思いながらも会釈を返した。

 

金曜の夜に帰宅するというのは、あまりない。土日の二日間を休暇に充てられる週は本当に僅かだ。少し前までは、息子が家にいて、夕食を用意して置いてくれていた。帰りをすこぶる嬉しそうに待っていた。土日はゆっくりしてくれと笑顔で言うのだ。それだけで疲れなど何処かへ消え去っていったものだが、今はもういない。身体の重みにもう歳か、などと思ってもいない事を感じつつ、エレベーターに乗り、目に痛む程の明るさに顔をしかめながら揺られた。

 

箱の扉が開いて、目の前にまた暗い通路が現れる。家庭的ないい匂いが僅かにした。肉。もっと仕事が早く終わるのなら気が滅入る程に貪って帰るのだが、そんなサービスを遅くまで提供する施設はない。どこぞの部屋で肉料理が振る舞われたに違いない。腹の虫がぐうと不満を訴えてくる。満たしてやる気力はない。なんせ冷蔵庫の中身を確認したのは五日以上前だ。何もない。腐らぬよう全部平らげた。添加物まみれの食事を取るくらいなら水で誤魔化して明日に持ち越す。意思で腹の虫を黙らせ、がちゃりがちゃりと二つ、カードで一つ。家の鍵を開けた。

 

自動的に点く玄関の照明が、己の物ではない者の靴を照らした。綺麗に揃えて置かれた靴。出迎えるように揃えられた上履。置いた記憶のない花の活けられた花瓶が、芳香剤とは違う柔らかな香りを満たしていた。食欲がふつふつと湧く。嗅ぎ慣れた香り。義弟の出す花の香だ。そして、微かに香っていた肉の匂いも。黙らせた腹の虫が、また騒ぐ。黙らせる必要はなかったらしい。

 

リビングダイニングの扉を開け、電気をつけた。黄味の強い暖色の光が、食卓に置かれたいくつかの料理と、椅子に座り机に伏せて眠っている黒髪を照らした。いた。いるとは思わなかった。

 

「うー...ぅ...まぶしい...。あぁ...おかえり...」

「ああ、ただいま。いたのか、サラトナグ」

 絶対に美味い肉。思わず声の調子が上がってしまった。大量の肉。肉。作った義弟であり幼馴染の黒髪の男は、眠そうに背伸びをしている。何食わぬ顔で。好物を大量に用意して。自分は食わぬ肉を。

「ごはんあっためるから...お風呂沸かしてあるから入っておいでよ...」

「何故いる?今日帰るとはいっていなかった筈だが」

「君の新しい秘書の子...あれもだめだよ...すぐに口を破るから...ふぁーあ。また偶然食べたのが君の秘書だっただけのことさ...」

「...またか。偶然が必ず起きればそれは故意だろう」

「言い掛かりはよしてくれよおにいちゃん。君の選ぶ女性はみんな、僕みたいなのが好みなんだよ」

ヘラヘラした笑みのまま、料理を温め始めた義弟。仕方なく何も追求せずに風呂へ行くが、あれが己の秘書を誘惑でもなんでもしているのか、近づき口説き落とすのはもう何度目かわからない。意図はわかりかねるが、恐らく、相応しい女かどうかを確認している。極めて無駄な作業だとは思うが、それで気が済むのなら好きにすればいい。どんな女が側に寄ろうと、妻であった彼女への心が揺らぐことはない。もう一人の妻であるあれとも、どれだけ比べようと美しさで敵うわけがない。年月を数える事を飽きる程共に連れ添ってきて、今更。何も変わることはないのだ。

己の身体を肩まで沈めて丁度よく溢れかえらない程度の湯量の湯船に、浴室も全て磨かれている。何故か息子がいた時よりも輝いている。本当によくできた妻。よく出来すぎた妻だ。仕事を終えて、買い物をして、料理を作り、ホコリひとつシミ一つ残さず掃除をし、力尽き居眠りをしながらも、主人の帰りを待つ。こんなに優れた妻が他にいるのだろうか。そうはいるまい。少なくとも己にとっては、これ以上ない妻だった。

本来の妻だった彼女は、どちらかと言うと面倒臭がりで仕事の方を好んでいた。彼女も彼女で弟の事を妻扱いしていた。三人で暮らしていた頃のことを思い返す。

 

 背に張り付く長い髪は決して己自身の好みというわけではないが、昔、風呂を上がった後三人で髪を乾かしあった時、私だけ早く乾ききるのが嫌だという彼女の要望で仕方がなく伸ばし始めた。乾かさなくとも、食事中にあれが丁寧に拭くことだろう。その時の表情は、いつだって穏やかなものだ。任せればいい。

 

ダイニングへ戻れば、見計らったかのように食事の用意がされていて、立ち上る湯気とそそられる香に思わず口角が上がる。私が座るべき椅子の近くで、予想通りタオルを持って立っている黒髪を、礼として撫でてやる。褒められた、とでも思うのか、犬のように擦り寄り、猫のように笑った。

 

 

「酒はないのか」

「あるけど、ダメだよ。明日昼間っから呑めばいい。お疲れの身体に負担かけちゃあねぇ」

「お前は飲むのにか...」

「僕はいーの。弱いやつだし。君の酒は薬品のようだよまるで。信じられなーい」

 

食事をしている己の正面で、ちびちびと酒を飲む義弟。女の様な、甘ったるく、軽い酒。酒である事が己にはわからない程の物だが、それでも満足するらしい。何故そんな度数で顔を赤らめる事が出来るのか。一人で楽しそうにしている。眺めていると、コップを差し出してきた。

 

「酔えない酒を飲む趣味はない、といつも言っているだろう」

「難儀だね〜ぜぇーんぜん酔わないもんねぇ、きみ。ふふふ、君を肴にして飲む酒は最高さぁ」

いつも酒を置いている場所には酒瓶がない。何処かへ隠されている。その上で煽るように目の前で飲む。一人だけで気持ちよさそうに酔う。全く、いつからこんな意地の悪い事をする様になったか。昔からだったか。もう忘れてしまった。いや気にもしていなかったのだろう。可愛いものだ、このくらい。乗ってやる事もなく、食事を終える。ずっと、飽きもせず、物を食む私をじっと見ている。

 

「御馳走様」

「お粗末様でした」

「美味かった」

「ほんと?ふふ。よかった」

 

あまり見せない、甘えた目をしてくる。褒めて欲しいと強請る様子は、甘えてきても猫のように気まぐれだった双子の姉とは対照的で、それでいてよく似ている。彼女もまた、こうして、ただただ見つめてきた。そして、撫でてやらないとこういうのだ。

 

「...褒めてくれないの?」

褒めさせてあげてもいいのよ?と。彼女は言った。全く、どこまでも似ていてどこまでも似ていない。犬を褒めるようにくしゃくしゃと頭を撫でてやる。幾つになっても、これが一番好きなのは変わらないらしい。酒の力を借りないと甘えてこないのも、変わらない。

己が席をたてば当然のように食器を片付け始めた。テーブルに置かれたままの僅かに残っていた飲み差しの酒を飲んでみるが、甘すぎる。飲み干し流しへ持っていくと、それだけでありがとうと嬉しそうにする。何をしても喜ぶ。何をしても笑う。すぐに笑う。

その笑みが、息子や、友人や、生徒達や、姉に向けられてきた笑みとは僅かに違う事を知っている。長い間、共に生きて、きっと、己だけが向けられた事のある笑みだ。何も言わないが、言う必要もない。これが互いにとっての当然。それでいい。

 

 

洗い物が終われば、勝手に来る。就寝の支度をして、体温が低くいつまでたっても寝床を温められないあれのために、先に温くしておくのが暗黙の了解だ。いや、どれだけ部屋を用意してやっても己の寝床にやってくるだけなのだが。拒む事でもない。歯を磨き終えたか、水の音が止んだ。そろそろ来るだろう。足音を忍ばせて、寝ているかどうかもわからない相手を起こさぬよう、ゆっくりと。その割に冷たい指で触れてくるのは、いつもながらよくわからないが。

 

身体を向けて、己よりも小さくて細い身体を抱いてやる。せっかく温めた寝床が相当冷えた。されるがまま抱かれる幼馴染は、頸から長い癖毛の髪を掻き分けるように蔦を生やす。寝台を囲うようにその蔦は広がり、暗い中ではわからないが、白い花をつける。身体から無駄な力が抜ける。落ち着く、己の好む香り。

普段は花をつけることはない。疲れるらしい。当人曰く、すこぶる機嫌がいいか、酔っているか、発情期かがあるとそれなりに自然と咲くそうだが。己と寝る時は必ずと言っていいほど花を咲かす。毎度自然と咲くと言うこともないだろう。私がこの香を好んでいると知っていて咲かす、が一番しっくりくる。献身が過ぎる。悪い気はしない。よく出来た妻だ。

 

 

「おやすみ。お疲れさま、ルートグラン」

「ああ、おやすみ、サラ。」

「...ふふ」

寝つきが悪い筈だが、直ぐに安らかな寝息を立てる。お疲れ様は一体どちらの台詞だ。

 

 

かつて、この家で、三人で眠っていた事がある。そして、私と彼女だけが残り、この男はどこかへ去った。息子がやってきて、その息子も出ていった。

三人で過ごせる家を、一人で維持する自信はない。これが居ねば、何も保てない。何故か、常に側にいる事だけは許可を出さねばならないらしい。そんなもの必要ないのだが。いればいい。いたければいればいいのに、何故か来ない。わからない。わからん。

 

まぁ、そのうちくるだろう。何も言わずに、気づいたら荷物を少しずつ運びいれて、住んでいるに違いない。そして、僕がいないと駄目なんだから、と嬉しそうに言う。想像に難くない。

それが何ヶ月後か何年後になるかはわからないが、今までの年月と比べれば大した事はない。そしてこれからと比べても、誤差の範囲内だ。

あまりにも来なければ、こちらから捕まえるしかないが。それはそれで面白い。追われれば逃げる猫の相手も、構わなければ擦り寄る犬の相手も、どちらも嫌いではない。悪い虫が付く前に、囲ってしまうとする。