ほうさんのお国柄

企画参加用創作ブログ。絵は描けない。文のみ。お腐れ。色々注意。

【閲注】番外:サラアダ 嘘でも結構、

そんなに閲覧注意でもない、すけべ描写は限りなく少ないし、暴力的な表現も少ない。と思う。

アダネアおいたんとサラトナグさんのお話。おいたんが下品な口調になる前、アレストとサラさんに呼ばれ同棲していた時期の話。ただただいちゃついてるだけの平和なお話。

 

あとおいたんの目の色の描写を緋色、で統一しているんだけど実際の緋色は(個人的に)あんまり鮮やかではない色。おいたんの目はもっと鮮やかな色なんだけど、響きを重視して緋色で。もしも相性が悪かったら焔色、に変更します

 

あんまり閲覧注意でもないって言ったけどやっぱり自己責任ですのでそこんとこお願いします。個人的にはサラアダは純愛です。

 

 

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光沢のある滑らかな肌触りのシーツ。絢爛その物の天蓋付きのベッド。全体を清楚な白でまとめ上げたその逸品は、窓のない小さな暗い部屋の中央に静かに置かれていた。

そのベッドに対して不釣り合いな狭さの部屋だ。ベッド以外には何も置かれていない。まさしく、そのため、だけの部屋と言わんばかり。

一本の黄色の筋が、その空間を貫いた。軋む音を立てて、陰湿なその部屋に咽るほど芳しい香りを含んだ空気が流れ込んでくる。足音が、ひとつ、ひとつ、ひとつ…扉が閉じられることはなく、その閉ざされていた閨は曝された。絹布の水面に散らばる、波紋のような金糸。浮かぶ緋色の硝子玉。用意された籠の中でおとなしく横たわる、少年。

伸ばされた手はその金糸を手繰り、絹を撫で、硝子をのぞいた。驕る声は自慢げにその少年を晒しあげる。拒むという行動を、その少年は決して行わない。引きずりだされ、膝に乗せられ、薄くしか肉のついていないその身体をどれだけ弄ばれようと。その整った容姿を我が物顔で俗物に語られようと。少年は、決して。

そう。ただ、絹布を焦がされ、金糸を千切られ、硝子玉を穢されただけに過ぎないのだ。決して、少年が穢されたわけではない。少なくとも少年はそう思っていた。

物として扱われ、権力の象徴として見世物にされても。例え、その稀有な生誕を笑いものにされても。その美しさを卑しさの表れだと嘲られても。細い足首に噛み付く枷を壊す術を持たなくても。少年は物であり続けた。そうすれば、朽ちていくのは物だけなのだ。

その証拠に少年の心は決して朽ち砕けることはなかった。必ず、この仕打ちを後悔させてみせようと。何もできない無力な器だという認識を、絶望の色を湛えた瞳をもって覆してやろうと。己の、見捨てる、という行為をもって、この枷を噛ませたぬしの野望に終点を打ってやろうと。その想いの炎が、少年から消えることはなかった。

そしてその少年の緋色の瞳に、俗物たちが映ることもなく。我が物にしようと、彼らは躍起になってくすんだ従順な宝石を愛でた。それは猛る野蛮な欲情を伴い、少年への枷を重ね、道徳の道を外れていく。
ああ、また。金糸を無残に引き千切ろうとする腕が、

 

 

 

「アレスト」
穏やかな音色だった。
「悪い夢でも見たのかい。うなされていたよ」
大きな声ではない。だが、ゆるゆると、確実にその声は青年の目を覚まさせた。夢の中で伸ばされた、太く、熱を持った大人の手ではなく。細く滑らかな白磁の腕が、汗でじっとりと湿った前髪をかき分けた。ひんやりとしたその掌が青年の額を拭う。火照りが吸われていくような心地の良い冷たさに、青年は緋色の目を閉じた。

「すこしむかしの、夢を見ました」
「やっぱり。嫌な夢だったんだろ?」
「貴方様に会う前の夢は、すべて嫌いです」

金糸の髪を持つ青年は、隣に横たわっていた華奢な黒髪の少年の背に腕を回し、撫でる少年の手をおとなしく受け入れた。この腕も、青年の眠りを妨げるあの腕も、同じ男の腕。それでも、その環境と向けられる感情が違えば、抱く思いも変わるもの。
あの閉ざされたじめじめとした部屋で。鑑賞され使用されるためだけの部屋で。カビ臭い、青臭い空気を肺にいれながら迎える腕とは違う。甘く柔らかい花の香りに包まれて、沈む月と昇る太陽の狭間の光を浴びて、清く澄んだ青葉の空気を吸いながら迎える、慈しみに満ちた腕なのだ。太く乱雑な腕ではなく、細くしとやかな腕。絹布を撫で、金糸を梳き、硝子玉を磨く腕。

「非常に不快な気分です。思考を穢された」
「それはいけないね。かわいそうに」

少年は金糸の髪を一房手に取り、キスをする。つづけて額にも。

「おいで」

青年よりも背の低く幼い容貌の少年の言葉であったが、それでもやはり青年は従順に、少年の胸元へ寄った。頼りのない薄い胸に、額を、唇を当てて。少年の細い脚に長い脚を蛇のように絡ませ、縋るように。

元からか、それとも捕われ続ける過去の痛みへの本能か。青年の火照り滾った体温が、密着した白磁の肌にわたり、混ざり、熱が温もりとなって二人を満たす。あやすように頭を撫でられる感触にふぅと息を漏らし、青年は、目の前の少年の胸を、赤い舌でちろりと舐めた。
小さな小さなうめきが漏れ、わずかに体がふるえる。見上げてくる緋色と、黒色が交わった。どうしたのと応え、暗黙の肯定といわんが如く背筋をつつ、となぞればまた。次は尖った犬歯が、少年の薄い肉に痕を残す。逆立ち、ぞわりと奔る痺れ。少年の脚が、絡まる蛇をのけてうごめく。擦れる太腿の柔らかさにさらにぎゅうとしがみつき、ぽそぽそと、青年は言葉を漏らした。

 

「たのしくて、」

弱々しいその声に、うん、と優しく返事をする。

「しあわせな事だけを、考えさせて」

窓、カーテンの隙間から差す朝の陽光が、黄金色に金糸を照らした。

「もう、朝だよ?」

青年は腕を伸ばし、雑にカーテンを閉めなおす。わずかな隙間すらもなくなった。明るくぼんやりとどれだけ窓が照らされていようとも、その空間はまた、完全に閉ざされた、彼らだけのものになったのだ。少年はそんな青年の様子を、ずっと愛おしげな眼差しで追っていた。


「朝なんて、来なくていい」
「本当に?わがままだね」
「貴方と閨で眠る間が、何よりも好きなんです」

青年は向かい合い横たわっていた少年の身体を軽く押し、覆い被さるように唇を合わせた。頬に垂れる髪がくすぐったいのか、少年はあどけない表情で何度も啄む青年に笑いかける。

「可愛いかわいい、僕のアレスト。お望み通り、夢に立ち入る隙も与えないくらいに、愛してあげるよ」
「いつまで?」
「君が望むのであれば、君が僕の元からいなくなってしまうまで。」
「そんな時が訪れることはないですよ、サラ様」

嬉しそうに細められた緋色が黒に映り、そして黒を映す。何人たりとも犯すことのできないその世界は、過去と同じ、寝台の上でだけの世界。睦言でのみ愛を交わすものであったが。それでもかつての少年は幸せだった。

 

使命に見捨てられ、両親に見捨てられ、生の意義に見捨てられ、自我の権利にも見捨てられ。そんな自分を唯一見つめ愛したその存在の愛が、何かの代わりだとわかっていても。関係のない事だった。少年の想いは揺らがない。

 

「お慕いしています」

 

それがどれだけ遠い、茨の先の未来でも。