ほうさんのお国柄

企画参加用創作ブログ。絵は描けない。文のみ。お腐れ。色々注意。

本編:9 サラとキリカのお仕事

ほんへはこっちがメインストーリーです。今回はキリカちゃんがメインかなぁ。サラさんとマダムの内容は次回に描写するぞ〜

ちょっとざくざく書いちゃった感じありますけど、大丈夫だろう多分。…多分!

※時系列の前後は各視点で多少起こりますが、●ーAの方と時間軸世界線は同じです。別ルートでもなく、ただのアレスト君視点なだけです。向こうは。

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「申し訳ございません、私のメモリー、記憶保管媒体の中に、あてはまる情報がございません」
「…製造名はべリヴァロ、あるいはJCDK2708、製造場所、時期は全くの該当情報なし…でござるか」
「三度の起動歴・記録消去形跡があります。その形跡以外では、すでにお話ししただけの情報しか、私の中には残っておりません」
「…どう致します、マザー」
「そうねぇ、持ってきてくれた用紙も、とっても昔の言葉で書かれてて、私にも解読できないのよぉ。いったん保留、でいいんじゃないかしらぁ。私こういうことにはあんまり詳しくないのよぉ。マーチャルが戻ってきたら彼女にお任せしましょう」

 

広大な土地。絢爛な内装。国の中央の高台に立つ巨大な王城の一室で、紫色の髪をしたアスラーンの女性と、マザーと呼ばれた青い髪をした精霊の女性が、一体のアルファの女性と向かい合う形で座っていた。

妖怪の女性キリカは口元に布を巻き隠している。その為表情は伺いにくいが、捲られる手元の書類の束を見て、笑顔とは程遠い険しい顔つきを見せた。

 

「べリヴァロ殿、貴殿の記憶メモリとやらを解析できる技術者はこの国にはいないでござる。が、もし解析できたとして、得られる情報はあるでござろうか?」
「ないと思われます。プロテクト…拒絶…権利認可拒否…そういった制限があるわけでもなく、私のメモリー、記録はそのほとんどが空白です」
「マザー、どうしようもないでござる。一度この者と竜がいた場所を調べるとしても、やはり先史文字の解読が必須でござろうし…」
「困ったわねぇ。私難しいことを考えるのは苦手なのよぉ。とりあえず、べリヴァロちゃんは私が責任をもって預かるわぁ。書類は私が預かって解読を進めるから…
キリちゃんは遺跡に向かってくれるかしら。きっと保管がされていると思うから、解ける子と調査役の子をつけるわね。しっかり守ってくれるかしらぁ」
「かしこまりましたでござる!では、後はよろしくお頼み申すでござるマザー!女王に報告次第、出発致す!」
「ええ、お願いねぇ。さあべリヴァロちゃん、おいでなさいな」

 

マザーと呼ばれた青髪の精霊の女性は、アルファの手を優しく引いてその部屋を出て行った。従順に連れられる女性型アルファ。その手、腕から見えるどことなくちぐはぐな肌の色が、キリカの目を引く。
非常に精密に作られた人型アルファであることは確実だ。しかし何故か、作りの適当さ、というものが垣間見えるような気がしたのである。製造名が2つというのも気にかかる。
精霊が力を持つこの国で、その能力を買われ王城警備隊のトップに上り詰めた妖怪である。自身の勘、というものに自信があった。


「(異質なサターニアの眼球…竜の負傷…異形のウサギ…立ち入った記録のないアルファの入国…ルートグラン様の失踪…これは…別の事件…?この平穏そのものの国で一度にそのようなことが起こるとは……一度に…?)」

一人残された部屋で考え込む。うんうんと唸りながら思考に耽っていると、何者かの気配が扉の外にある。それは彼女の良く知る人物であり、普段彼女が仕えている人物であった。

 

「…キリカ?いるんでしょ?入っていいかしら」
「どうぞでござるよぉ女王~♡」
「…いつもいやっていうほど私の傍にいるのに、今日に限ってマザーとお話ししているから、びっくりしたわ」

 

黒い髪に赤茶けた目。額の上部に生える二本の角。豪華なドレスに身を包んだ鬼の女性。優し気な垂れ目が特徴的だ。
ルウリィド国の、王。名前はない。だた王、あるいは女王と呼ばれる、王城に住まうもの。キリカの横、マザーが据わっていた椅子に腰を下ろし、じっと、キリカを見つめた。

 

「…いつもは横に座ったらうれしそうにするくせに」
「申し訳ないでござるよぉ女王。キリカは今は仕事中でござる」
「仕事って言いながらいつもいつも私のお風呂をのぞきに来るのは誰よ。」
「あれは警備でござる!!女王の身を護るため!キリカは麗しい女王のことをお守りしようとしているだけでござるよ!」
「じゃあ今はいつもの仕事よりも大事なことをしているの?」
「大事になりそうな仕事、でござる」
「どんな仕事なの?」
「それは言えないでござるなぁ」
「私は王よ?」
「存じているでござる」
「でも言えないの?」
「まだ明勲様から許可が出ていないでござる」
「王なのに。」
「むくれないでくだされ女王~、、、キリカもお教えしたいのは山々でござるが…」
「お父様もお城に来たっていうのに私にあってくれなかった」
「明勲精霊であるお父上は忙しい方なのでござるよ」
「なによ明勲明勲って。嫌になる」

女王はうつむいた。ふわふわとした豊かな黒髪の頭にキリカは手を置き、ゆっくりと撫でる。

「私のことを、一度も抱いてくれないくらい、忙しいのね」
「…女王、」
「わかってる。王としての責務は果たすから…。お仕事邪魔してごめんねキリカ。部屋に戻るわ。」
「…また、女王にお仕えできるよう、早急に済ませて戻るでござる」
「ええ、そうしてくれるかしら。キリカがいないと…ちょっと、ちょっとだけ、寂しいから」
「デレでござるか!?」(ガタっ
「もう!キリカのバカ!!そんなんじゃない!!!」


女王は逃げるようにその部屋から立ち去っていった。あまり歩き回る事もなく、毎日王座に座り続けている事が仕事である女王。もう空は暗く、見渡す街並みは暖かく光っていた。部屋に戻る前にわざわざキリカを探し歩いたのだろう。

普段は他人に対して冷たい印象の強い女性であるが、こういった時に見せる優しさとわずかな幼さが、女王が幼い頃から仕えているキリカとしては可愛らしい所だった。

 

「…しかし!仕事は仕事でござる!ニンっ!」

 

普段構ってくれてるのに最近構って貰えてなくて寂しい。
母親ともそう会えず、父親はその腕に一度も女王を抱いた事がない。この感情が気丈に振る舞う女王の最大のわがままである事は理解しつつ。また平和な日常が来る事を願い、キリカは溶けるようにその部屋から姿を消した。

 


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「じゃ、あたしゃ街に戻るよ。世話をかけたね」
「別に、大した事じゃなかったよ。もっと大きいものが釣れちゃったのは予想外だったけどね」

 

夜が明けた草原に建つ小屋の中で、別れの言葉を告げる。双方笑顔がある訳がなく疲労感も伺える。謎の建造物から戻り夜通し議論を交わし、これは大事であるという結論を導き出した。

 

「…マーチャル、僕は君を買ってるんだよ」
「知ってるさんなこと。アタシの能力は買ってて、アンタはそれを利用したがってる。
だがね、アタシの商品はアタシ自身だ。タダでくれてやる訳がない。わかってんだろ?」
「君と長く付き合っていける事が、価値があることだっていうのはわかってる。…頼んだよ」
「頭が固いジジイの割には利口じゃないかい。ひっひっひ」

 

何らかの呪具だろう。マーチャルはその場から姿を消した。家主のいなくなったその小屋にポツリと一人。黒髪の精霊サラトナグは倒れるように椅子に座り込んだ。

 


「なんだっていうんだよ…」

 

側のテーブルには乱雑に散る紙がある。その中でもわりかし整った字で書かれた一枚を取り上げて、摘み上げるように眼前に吊るし晒した。

 

 

「…考えたくないな。僕、嫌いなんだ。こういうの」

 

いくつかの単語が書かれている。そこから伸びる線の先にも、単語が。言葉の筋書きがその紙面には描かれている。

妖怪の目、竜、アルファ、不法入国、隠蔽、殺害、実験、金、失踪。

 

「…裏切り」

 

乱暴に紙を投げた。重みがある訳でもないその紙は飛んでどこかへいくわけでもなく、またすぐ側へ落ちる。常に視界に張り付く現実。頭を抱えるように掻き、ふわふわとしている黒髪が、ぐしゃぐしゃと乱れた。拒むように目を瞑る。


「…もっと考えるのは、起きてからでいいかなぁ。もう、疲れたんだよ」


返事はその空間に響く訳がない。そこにはサラトナグしかいないのだ。


「…ありがとう、マリーシャ」


子供の声が響き、そして、蹲るように、眠った。