ほうさんのお国柄

企画参加用創作ブログ。絵は描けない。文のみ。お腐れ。色々注意。

屍人 前章①

自称屍人シナリオの前章①。前章は②もあります

まだ大丈夫ですが、シナリオの性質上、国の裏側、ダークな世界観で、戦闘描写なども多少入ってくるものになります。流血、残酷、胸糞、そういう要素が苦手な場合はお気を付けください。恐らく回を増す毎に傾向が強まっていきます。

また、サラトナグさんを筆頭に明勲精霊達が容赦なく容赦ないです。【精霊は絶対に命を尊び、殺しなんてしないんだ!!】的な考えの場合はすいません。当国の精霊は人間達を管理し間引き、容赦なく殺します。むしろ殺すことを前提に管理している者達です。羊飼いが羊を可愛がることはあってもしっかり〆るし食べるし計画的に数を調節する。それと何が違う?系の思考です。この時点で嫌な予感がしたら避けておいてください。当国ルーツの新種族、屍人の誕生に関わるssではありますが、作る為に見るのが必須なssではありません。

屍人ちゃんはぜひ気軽に作ってほしいと思っております(にっこり)

 

貼るの忘れちゃったんですけど、ごんちゃんの休日的な名前のssの続きの時間軸、になってます。

 

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のどかな日である。麗らかな昼である。テラスに置かれたテーブルに並べられた、彩り豊かな昼食。メインには腸詰を挟んだパンが山のように盛られている。テーブルのセットをした青年と、声をかけられて家の中から出てきた茶髪の男性。香ばしい薫りを嗅ぎ分けたか森の中から、大柄な青年と青年に抱えられた少年の二人。計四人が席に着く。
 
「サラトナグはどうした」
「手紙が来たらしくて、睨みあってます」
「そうか。…まぁ、祈っている内に来るだろう」
 
三人の精霊は眼を瞑り、祈りの言葉を述べ捧げる。三人の姿を眺めていた人間の青年アレストは、祈りの言葉の分からぬまま、ただぼぉっとその様子を眺めていた。その内に何やら難しい顔をした少年が家の中から出てきて、青年の隣に腰かけた。祈りに加わるその表情は明るいものではなく、青年はその横顔を、ああ、仕事か。と眺め、ただ何となく頭を撫でた。見た目にそぐわない幼げの消えた黒い眼が、疲れた、と視線で青年に語っていた。
 
「食事しながらでいいんだけど、聞いてくれるかなぁ」
 
一斉にパンに手を伸ばした三人が少年の発言に視線だけ向ける様子を、似ているなぁ、と思いながら。青年はもぐもぐと咀嚼を続けていた。
 
「ゴンちゃんは覚えてるかもしれないんだけど、屍人計画って、わかるかなぁ」
 
仕事の話は、殆ど青年には関係の無い事だった。むしろ青年にとって仕事の話は、自分は触れない方がいい話、であることの方が多いのだ。
青年は人間だ。この国での人間は、精霊達に管理され、悦楽を貪る事を望まれているのだ。青年はそれをよくわかっていた。国の裏側、管理をする者達と深く関わりながら、青年はそれについて触れ過ぎない術を身に着けていた。
 
「ちょっと昔に始まった海底洞窟浄化に関する計画なんだけど。それが完成したらしくてさ。見に行かないといけないの」
 
この言葉が、自分以外、にのみ伝えられているという事を理解していた。
 
「ただ、どうにもキナ臭いんだよねぇ。お仕事として、ついてきてくれるかな。拒否権はないんだけどね」
 
この仕事が、国民には知られることもなく、秘密裏に処理されるべき一件であることを理解していた。
 
「ご飯食べたら、街まで送ってくれるかい?アレス」
「ああ、勿論」
 
街まで送る。そこまでが、自分が関わることを許された線であることを、理解、していた。
 
どれだけ彼等と心を通じ合わせたところで、関われる場所は限られていて、力になれる部分は決まっていて。知るべきではないことを知らぬままでいる以上の手助けは出来ないのだと、ただ黙々と飲み込んだ。
 
 
 
これは、知られるべきではない、裏側の、話。
 
 
 
 
【道中の話】
 
 
馬の蹄の音がかろかろと鳴らし、馬車は進む。豪勢でもない馬車。そこに乗る者がまさか国政に関わる者達ばかりであることは、一見しても誰もわからないだろうという馬車だった。
 
「鳥さんが手紙を届けてくれたんだ。屍人計画の研究所の名前でね」
少年がその手紙を回し読むように、手渡して促した。その相手は大して着飾ることもなく、装飾があるわけでもない木製の大杖を持っているだけの男性だったが、その者こそが精霊達の指導者と名高い魔導師、ルートグランである、というのは。疑いようのない事実であるのだが、見る者は疑うかもしれない。
「どこが臭い?見た所では、ただの招待状、だが」
その手元を覗き込む大柄な青年ゴズウェルは、やはりというかあまり身なりに気を遣っているようには見えない。長い前髪、ぼさぼさとした襟足、破れ、煤けた衣服。国の政を行う機関の一つ、その長であるのだが。その気配はない。
「…場所…、です、か」
その青年の胡坐に腰かけ、ふんぞり返る少年がいた。名はルノーテスラ。見せろとでもいうようにその手を引き寄せる。態度はいささか高慢であるが、その外見は際立って豪奢な事もなく。隣に座るルートグランを父に持ち、その跡継ぎである少年。形態さえ違えば一国の王子であるのだが、彼を王子と呼ぶには少々躊躇われる。
「む。僕は知ってるぞ。研究許可が降りるような地域じゃないな?ここは」
「そうそう。よく知ってたねぇ、ルノ。ここ、許可してない場所なんだ。近くではあるんだけどね」
また手元に戻ってきた手紙を胸元にしまい込んだ黒服の少年サラトナグ。最も正装らしい、といえば正装らしい恰好をしている。だが、裏の施政者であると紹介されて、素直にそうですかと握手を求める事が出来るか?と言われれば、決してそうには見えない少年だ。サラトナグは皮肉めいた目で、隣に座るルートグランに息子の方がよく勉強してる、とつぶやく。自慢の息子だ、と小さく返すそのやり取りは、大して珍しい事でもないと言えるようなあっさりとしたものだった。
 
「この計画が始まったのは200年とかその位前なんだけどね。その時に僕は、研究を許可する場所を指定した。その中でなら好きにしていい、ってね。最後にこの研究の報告があったのは、今から30年くらい前だ。その時はなんの異常もなく、指定した場所で研究してたはずなんだけど…完成発表に指定された場所は、ちょっと違う。違う理由も書いてない。30年も前の報告との違いなんてわからないだろうとタカをくくられたのかもしれないけど、なんにせよ怪しいんだよねぇ」
ため息交じりにどうでもよさそうに、面倒くさそうに、その言葉は吐き流された。サラトナグの眼は大した興味を光らせていない。欠伸混りに馬車の揺れに身を任せ、隣に座るルートグランの肩に凭れ掛かり睡魔を享受しようとしている。
「…完成であるかどうかは、関係の無い事、か」
サラトナグの言葉に対し、言葉を荒らげたり、焦りを見せる者はその中にはいなかった。
「そうそう。完成してるなら勿体ないし貰うけど。でもどうでもいいんだよね。反乱の芽になった、っていうのが確定したから」
「人間なんかにやらせるからそーなるんだ」
「あのねぇ、君とか君の父上みたいな人喰い眷属を持ってる精霊の為に、態々咎人を作ってるんだよ?僕の苦労も察して欲しいんだけどなぁ」
そんな言葉も知らぬ振り、自身の眷属の大蜘蛛を撫でて、ルノーテスラは暇を弄ぶ。
「じゃあ…今回の、仕事、は。…処理…ですか?」
こてん、と小首を傾げ、ゴズウェルは何の異常も抱いていなさそうに、処理という単語を口に出す。隠れて見えない瞳は純朴そうな瞳であるのだから、その単語の持つ物騒さと声色と表情の不和感は、誰しもが抱く感覚だろう。その言葉に、よくできました、と幼子を褒めるかのような穏やかな微笑みでサラトナグは応える。
「正解。研究者は全員反逆罪で処理。研究成果は情報漏洩しないように確保して始末する。久々の荒事の仕事だから、街までは寝ておいたらいいと思うよ」
わかりました、と答えて、ゴズウェルも力を抜く。張りつめるような緊張感というのは、その場に最も相応しくない言葉だった。
 
「はーぁ。面倒くさいなぁ」
気怠そうな文句が、荷台に静かに転がった。