ほうさんのお国柄

企画参加用創作ブログ。絵は描けない。文のみ。お腐れ。色々注意。

愛だ愛だの間のあいだ。

おじじとマザーがすこし仲いいと嬉しいなって思って書いたんだけどコレ知ってるか11月22日のいい夫婦の日辺りに書き出したんだぜ…。
今までとちょっと書き方変えたんだけどやっぱりそういうのって一気に書き切らないとノリが変わっちゃって苦労するね。ってことで中途半端でしたけど、まぁいいかって。多分戻します…。
おじじとマザーは健全なCPだぞ。ただお互い変な生活送ってるからな。仕方ないな。そらルノ様もこじれるよ性格。
 
オチはいつも通りないぞ。

 

===========================
 
 
空が赤灼け、光降隊が城門から所定の位置へと向かい始めていた。日の入りと共に広場の管理局は扉を閉め、窓口の灯を落とす。それらと入れ替わる様に酒場に食事処、宿や住居がポツポツと明かりを灯し、こうして眠らない街は夜を明かすのだった。
 
奴隷管理局の扉から噴水広場に姿を現した青髪の女性が、戸口に掛けられていた札を裏返した。そうしてもう一度中に入ろうとして、広場から投げられた一般市民の声に立ち止まって微笑む。振られた手は穏やかに、マザー、そう呼ぶ声に慈しみを返した。
 
 
管理局から繋がる別棟に向かい、一室一室を廻る。時には言葉を交わし、時にはハグやキスを贈り、子供と呼ぶ奴隷達に母として触れる。頭を撫でればマザーと呼ばれる彼女は、決して崩れぬ柔らかな笑みで皆を一様に愛した。そうして彼女の一日は終わっていく。眠らぬ夜を過ごすこともあれば、微睡みの昼を過ごす事も。子供達を見守り、子供達の為だけに存在する、慈しみの母として。
 
西の空の染まる夕暮れ時に子供達との語らいを始めても、彼女が自身の時間を過ごすことが出来る様になり、私室に戻る頃には、月明かりばかりが彼女を見守るのみになる事も決して少なくはない。手燭を持ち暗い廊下を歩くその姿は、子供達に寄添い寝かしつけたが故に、誰にも認められる事などないひとりの女。それでも表情は決して崩さない。いつであれ微笑みを湛えている。それがマザーと呼ばれる、彼女なのだ。
 
取り出した鍵を虚ろな穴へ。なんの手応えも音もない事に、彼女は僅かながら心を跳ねさせる。彼女の私室の鍵を持つ者は当然ながら多くはない。彼女はこの施設の長であるのだから当然である 。ならば、既に鍵が開いている事に対し盗人でも入ったかと思案するべきなのだが、彼女の頭をよぎるのは、数少ない鍵を持つ者がこの部屋の中にいるという事。そしてその中でもただ一人が、もしかしたらいるのではないかと。それだけが想起され、彼女は静かに扉を開けた。そしてその先には、茶色の髪に、緑の瞳を持った…
 
「…あらぁ。ルノー…そんなところで眠ったら…風邪をひいてしまうわぁ」
 
薄暗い室内で、上半身だけを寝台に乗せてぐうぐうと寝息を立てる、彼女の息子の姿だった。思い描いた彼と、同じ色をした、愛しの我が子。声を掛けると眠たげに目をこすり、うぅと呻くその姿に頰を綻ばせた。
 
「今日は随分とお疲れ様なのねぇ…どんな事をお勉強したのかしら。起きたら、聞かせて頂戴ねぇ」
 
とんとんと背を撫でて、寝台に入る事を促す。もぞもぞと動き出した様子に立ち上がり、さてあともう一仕事、と思った矢先、彼女の袖がくいくいと甘える様に引かれた。眠たげなとろんとした幼い目が、彼女をぼんやりと見上げている。行かないで、と静かに強請るその様は彼女にとって実に物珍しいもので、それは、今までに幾つもの子を生してきた彼女にとっても、だった。
 
「…いっしょに、ねんね、する?」
「…う。」
 
その返事に彼女は笑んで仕事の事など隅に置き去り、寝台に寝そべり我が子を迎えた。早々に瞼を閉じる気位の高い息子の、歳の割に気難しそうな寝顔に父親の面影を感じ、ぎゅ、と抱きしめる。
彼女の子は、決して彼女を困らせない。彼女の望む事を望まれずとも行うのだ。決して彼女に逆らわない。いかに些細な事でも。彼女に与えられる以上の事を、決して求めない。
さみしくて、母と共に眠りたいなどと彼女を引き留める事をするのは、彼女の袖を引くなんてことをするのは。腕の中で眠る、彼女と、彼との、子、だけ。彼女の胸の、はじめてのところがじんわりとあたたまる。安らぎと温もりを抱いて、彼女は瞼を閉じた。
 
 
=======
 
優しい夢が訪れた。彼女の前髪を、大きな手が撫でていた。彼女のしあわせを、柔らかく撫でていた。彼女はその暖かさに意識だけを起こし瞼は閉じたまま撫でられていたのだが、その温もりが彼女達を撫でる事を止めて離れようとした時、彼女の無意識は咄嗟に手を伸ばし、彼を引き止めた。それに驚いたのはその双方で、薄いカーテン越しの白明りが些細な輪郭しか浮かばせない中で、確かに二対の瞳がぱちりと見つめあう。彼女が想った深緑の瞳は静かに目尻に皺を寄せ、自らを引き止めた手を握り返す。白く嫋やかな女の手と、大きく節くれだった男の手。慈しむように繋ぎ合えば、彼女の感情は充足感に満ち震え、歓喜にずくりと心臓が鳴る。
 
「起こして、しまったかね」
「起きれて、よかったですわ」
 
稀にしか姿を現さない男だった。二人の間で寝息を立てる我が子が出来てからこそそれなりに街に立ち寄るものの、それ以前は本当に稀だった。理由、意味、要件がなければ決して立ち寄らない。そんな男。彼女の抱いてきた、理由もない、用もない、何かしたいわけでもない、それでもただ会いたい。そんな感情を、決して理解する事はないだろうなと思えるような男、だった。
そんな男が用もなく、むしろ、起こさぬように、触れに来るなど。幾年か前の自分自身にもしも伝えてみれば、どれだけ驚くだろうか。…いや、元より彼は、慈しみ深い方であったではないかと。子を起こさぬように、声を潜めてどうしたと微笑む姿に彼女は思った。
 
「もう…行かれるの?」
「そのつもりだ」
「あの…よろしければ、朝食を、一緒に…いかがでしょうか…」
「いや、街の世話にはあまりなりたくない」
「そう…ですか…。いえ、ルノーテスラの普段の様子だとか、お聞き出来たらと…」
 
彼が昔からこの街を好いていない事は、彼女もよく知っていた。引き留めるべきでないことも。ただでさえ指導者という肩書を持つ彼を引き留める権利など自分も持っていないという事を理解したうえで、引き止める手に力が入る。この手を求めているのは知性ではなく自分自身の感情。言い訳がましい理由を並べてしまう女々しさが、これまでの彼女の生涯では湧き出ずる事もなかった感情が、今更になって。彼女の眉を力なく垂れさせてしまう。月明かりを更に映し込む蒼い瞳に覗かれて、彼は、静かに彼女の手を外し、上衣を傍の椅子の背へと掛けたのだった。
 
「詰めなさい。ルノーを起こさぬように」
「…!はい、ルートグラン様」
 
男と褥を共にして、一夜を過ごして、ただの一度も交わることをしないなど。そんな夜を過ごす事は稀で、いつだって熱く濡れた暗黙の時間になるというのに。
そんなことをしない彼との夜は、それでも、あたたかい。
 
「おやすみなさいませ」
「…うむ。よく、眠りなさい」
 
 
いとし子を抱き、いとしき方に抱かれて、彼女の寝息が夜闇に響く。男の手が、彼女の頬に、やさしく触れた。
 
 
===================
 
 
 
早朝
「んん…むぁ…?時k…「起きたか」ちっ、ちちうえぇっ!!??おはようございますッ!!」
「静かにしなさい。彼女が起きるだろう」
「…母上、まだ寝てる…?僕はいつの間に…」
「…今日は、休みだ」
「…え?」
「私はまた寝る。今日は好きなだけ寝りなさい」
「えっえっ、まさか父上がそんなことを…!?」
「………」
「…おやすみなさい、です…。…Zzz…」