ほうさんのお国柄

企画参加用創作ブログ。絵は描けない。文のみ。お腐れ。色々注意。

書物庫で過ごす一日中

 

テディたそとちょっとだけおいたんの話。

テディたそは何を喋っているんだかよくわからない子です。何も考えていません。考えている時でも、考えるという能力が少々欠如しているので、ちょっとわけわかんないです。

 

これでも相当長生きの部類に入る、ロリババアショタジジイ枠です。きゃんわいい。

 

突貫で欲望のままに書きました。このおいたんは綺麗なおいたんですので下ネタはないです。

 

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「おはようございますかめさん!」

 

かめさんはお辞儀をしてくれました。
天井まである大きな本棚がたくさん。ぼくとかめさんと本と、インク。寝る場所に使っている綿を片付けて、お洋服を着ます。

 

この書物庫には、ぜんぶがあります。ぼくの場所です。ぼくはここから出る必要はありませんが、朝だけは、ぼくはこの部屋を出ていきます。

お顔を洗う事も、ご飯も、ぜんぶができます。でも、朝だけは出ていきます。
今まではしていなかった事です。
でも、今はしています。するように、言われたからです。

 

書物庫のドアは大きくて重くて、ほんの少し開けるのが大変です。でも開けるとかめさんが留めておいてくれます。ぼくはまいにちかめさんにありがとうございますと言ってお部屋をでます。
何かをしてもらったらありがとうございます、をいうのだと、教わっています。

 

ぼくはお城にずっと住んでいるそうですが、あんまり廊下をおぼえていません。書物庫以外の光景をあんまりおぼえていません。でも今は毎朝あるくので、少しだけおぼえています。


今日も廊下はきれいです。ゆっくり歩きます。急いであるくようにはいわれていません。

廊下の左側は、中庭に繋がっていて、今日もあたたかな陽射しがまぶしいです。

お花はきっと昨日よりも数が減っています。桃色の量、黄色の量、赤の量、緑の量、視界を占める割合、茶色の濃さ。

色の配分を一番あたらしい中庭の記憶の絵と差し替えて、ぼくは廊下を歩きます。


めざす場所につく前に、そのお方はいらっしゃいました。ぼくは挨拶をします。朝、初めて会う人には、おはようございます、を言うのです。

 

「アダネアさま、おはようございます!」
「おはようございますテディ」
「今日は昨日より少しだけ早いです!」
「ええ。少しだけ、早く起きました。貴方は狂い無く過ごしますね、相変わらず」

 

お城には、王様と、その母君、或いは父君。警備隊、王様方の召使いがつねにおられます。それとぼく。
それ以外の方は、いたい人がいます。


アダネアさまは、次の商人管理局の長になられるお方です。今はマダムが、この城の中でおしごとをしていらっしゃいます。アダネアさまも、このお城に住まわれるそうです。

 

「食事に行きましょう」
「はい!」

 

昨日やいつも、アダネアさまのお部屋に毎朝お邪魔して、いっしょに朝ごはんをいただきます。きょうはアダネアさまが書物庫の方に迎えに来てくださいました。アダネアさまは屈んで、ぼくを抱えあげます。

 

「テディ」
「はい!」
「書物庫は寒くないですか?」
「さむい、ですか?よくわかんないです!」
「手が冷たいですよ。もしも手が悴む様になったら、報告してください。作業は暖炉のある部屋ですればいい」
「わかりました!」


おしごとの事は、今まではマダムやサラさまに報告していました。これからは、アダネアさまが、ぼくのおしごとの管理者になります。
そして最初に言いつけられたのが、毎朝、あいさつをすること、です。

 

ぼくはずっと書物庫にいます。ぼくのお仕事は書物庫ですることです。いっぱいの本を、たくさんの古い本を、書きうつして、とじて、またしまったり。
昨日あったこと、これからおこること、今年あったこと、そんな様なものを紙に書いて、とじたり。
それがぼくのお仕事ですが、ぼくはたまに、書物庫の中で動けなくなってしまいます。

理由はよくわかりません。空腹とか、熱中症とか、いろいろ教えてもらいましたが、どうすればそうならないのかがよくわからないのです。

 

アダネアさまは、そうならないように毎朝顔を見せるようにとおっしゃいました。なのでぼくは、いまはまいにちアダネアさまと朝ごはんを食べて、お仕事の進みぐあいをお話しして、新しいお仕事があればもらって、それから、それから、

 

「今日もお仕事頑張ってくださいね」
「はぁい!」
「ではどうぞ、飴ちゃんです」
「やたっ、やたー!!あめちゃんです!」

 

まいにちひとつ、あめちゃんを貰います!
今までは、誰かが書物庫に来た時のお土産だったり、マダムがたまにくださったり、それだけだったあめちゃん。おいしいあめちゃんをまいにち食べられるのは、ちょっと嬉しいことです。

 

あめちゃんを食べると、アダネアさまは決まってぼくの頭をなでなでします。それがとても気持ちいいので、ぼくは朝がくると、なぜだか跳ねたくなるのです。


「テディ」
「はい!」
「働き過ぎて、死なないように」
「はい!もちろんです!ぼくが死んじゃったら、記録できませんから!」
「…そうですね。
さぁ、昨日は三人明勲が死にました。記録に足しておいてください」
「はい!」


ぼくは書物庫に戻ります。アダネアさまに渡された紙を見ます。


「分類、暴動制圧」
「任務、達成」
「遺体処理、別の明勲精霊により終了。一名は魔導地雷用贄として処理、二名は親族の元へ頭部変還の後回収、他明勲の肉食眷属用食肉として処理、報奨金要請商人管理局へ通達済、穴埋めとして学院より教員一名異動」

 

一字一句、型通りに書きうつして、今年度の死亡明勲精霊リストに加えるのがおしごとです。


この部屋には全てがあつまっています。たくさんの記録が。一つの文字が、一つの数字が、あつまって、一人の記録として残り続けます。

 

死んでひとを表すものが、処理に掛かった金額だけになっても。生きた名誉を表すものが、どれだけ殺したかの数字だけになっても。
それは間違いなく記録であって、みんなが、ぼくが、忘れてしまっても。この部屋には残りつづける。

 

ぼくの文字が、黒いインクが、一枚の紙が、一つの命の最後のかたちになる。

 

ぼくの仕事はだいじなしごとなんだそうです。
大事なしごと。ぼくにしかできない仕事。たくさんの命を扱うしごと。
ぼくにはよくわからないけど、ぼくの文字は、大事な文字。

一字一句、丁寧に。型にはめて、書きうつします。

 

「あっ!ここの文字間違ってます!」

 

形式通りの文字におきかえて、また明日の朝、書き換えた事を報告します。

三人の方の情報を書きうつし、まとめて、とじました。

 

毎日のおしごとにうつります。古い本をとって、破かないようにめくって、綺麗で丈夫な紙に、同じように書きうつしていきます。


まいにち、くりかえします。
たくさん、かきうつします。
いちじいっく、まちがいなく。
かたちも、おなじに。

それがぼくのお仕事です。

 


ぼくの名前はティリスディウス。
書物庫の管理者をしています。
それ以外、何もできません。
文字を書いて、おぼえて、くりかえす。それがお仕事です。

 

夜になったら服を脱いでたたんで、また、綿と毛布にくるまって眠ります。


「おやすみなさいかめさん!」

 

かめさんはお辞儀をしてくれました。かめさんはゆっくり、あたたかい場所に歩いていきます。


今日のお仕事は終わりです。明日は、お仕事がふえるのかな。増えるのだとしたら、誰がお亡くなりになったのかな。
もう死んでるのか、今から死ぬのか、それとも死んでいないし死なないのか。

 

ぼくには、なにもわからないけれど。
でもきっと、ぼくはあしたもあめちゃんが貰える。
ぼくにわかることは、これだけです。