ほうさんのお国柄

企画参加用創作ブログ。絵は描けない。文のみ。お腐れ。色々注意。

クリスマスの時期だけどクリスマス関係ない軽い事件の話(前編)

世間はクリスマスですがこの国にはクリスマスという文化が基本的になく、この時期には豊年祭という、みんなで集まってご飯食べて冬越そうぜ~!的なお祭りをしてます、って感じです。

 

後編はかけなかった。のんびり書きます。完全ギャグ茶番を目指してます。本人たちは必死なんですけどね、でもね、まぁ、平和だなぁって思います(?)

 

いろんなあきのりの出るどたばた話にしたいなっていう、理想は高いが現実はきっとそうはいかない。

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街は冬季の豊年祭で、食欲をそそる香りが満ちていた。
今年一年の収穫を祝って大いなるものに捧げ物をし、食糧に余裕のある家から余剰食材を集め、蓄えの少ないもの達にふるまう。国としての行事であり、街を挙げてのイベントである。
貴賎なく和気あいあいと皆が過ごす噴水広場で、大鍋がぐつぐつと煮えている。その中は様々な食材が入っており、主に奴隷達が木製の器に盛り来場者に配る。皆が笑みを浮かべ、素材の味豊かなスープに舌鼓を打ち、談笑の末に街の裏にしけ込む…ような気もしなくもない。
 
 
毎年笑顔で終わる豊年祭。国内でも名の知れた明勲精霊達が街に集合し食事を手渡したり、外の国との交流により新たに近年行事化されたビンゴ大会なども加わり、国民たちは祭りの間中和やかに過ごす。
 
しかし、今年は…何か不穏な動きが…彼らに迫っていた…
 
 
 
 
 
「隊長!!街中は全て探しましたが見当たりませんっ!
「くそっ、一体ルノーテスラ様はどこに行かれたんだっ!?捜索範囲を商業都市まで広げろ!早急に見つけるんだ!!これ以上被害者が増える前に!!」
「はいっ!!」
 
 
「…何人追っ手がいるんだ…お前たち僕を追う以外に仕事があるだろバカモノ…」
 
 
ーーーーー
 
 
「おいしいねぇ」
「そうだな」
「あーん♡」
「…あーん」
 
中央広場から少し外れた通りに置かれた二人掛けのベンチ。吐く息がわずかに白くなる中、サラトナグとアレストは並んで腰かけ暖かいスープを啜っていた。広場では今は真っ赤な服装に髪をした明勲精霊レイゲンドールが、相変わらずの笑顔で皿を配っている。国民からの人気も高い彼の周りには、ひっきりなしに誰かしらが寄っている。そのすべてに快く受け答えしているようだ。
 
まさしく平和なものだ、とサラトナグはその様子に安堵しながら最後の一口を飲み干す。秋から保存されていたカボチャの甘み、芋のまろやかさ、上質な脂の肉の旨み。それらの詰まったまさしく恵みの鍋。すでに飲み終わっていたアレストの使っていた食器も受け取り、回収場所に戻しに行こうと立ち上がると、何やら騒がしく黒いコートに身を包みフードをかぶって顔を隠している人物が駆け寄ってきた。
 
「…なんか、あったんだなぁ…」
「こんな年の暮れまで大変だな…席外してた方がいいか?」
「うん。危ないかもしれないからね。遊んでおいで」
「おう、気をつけてな。家に戻ったら労ってやるよ」
「ほんと?いやぁ、それだけでまだやる気が出るよ」
 
サラトナグの黒い前髪をかき上げ、現れた額に口づけた。照れくさそうにしている事には触れず、二人分の食器を奪ってアレストは去っていく。
その紺の後姿を見送って、一度、咳払いで気を正した。控えていた黒いコートの人物に向き合う頃にはその瞳は外見に似合わないほど冷え切ったもので。思わずその冷たさに背筋が震えたのか、黒コートも背筋をただし、恭しく礼をした。
 
「…要件は?ほんと、街に来るとこういう厄介ごとが起きるから嫌なんだ。」
「大変、申し訳ございません」
「いいよ。それが仕事だ」
「誠に、些事ではあるのですが我々では対処できず…何名か被害が…」
「穏やかじゃないなあ。案内して」
 
 
 
 
サラトナグが案内された先は、とある建物の中の一室。そこには既に何名かの明勲精霊がいた。何やら会話を各々しているようだが、定期的に一人ずつが絶望し切った顔でその部屋から出ていく。この日が己の命日であると理解しているかのような光の無さ。
 
「(だろうね…)」
 
そしてまた部屋を出ていこうとしている男性の肩を、ポンと叩いた。涙の浮かぶ瞳でサラトナグを見つめ返す。
 
「…君の犠牲を無駄にしないよう、早急に片をつけるよ」
 
男性は決心を決めたような凛々しい表情で、去っていった。
 
 
 
部屋を見渡すと、一人、サラトナグのよーく知った顔の者がいる。近寄って行くと、当然その人物も気が付き近寄ってくる。茶髪、緑目、長身。
 
「やぁルート。君は連れて来られたクチかい?」
「ああ。何が何だかわからんが、ここに隠れていろと…」
「だろうね…」
「一体何があった?出て行った者が帰ってこんし、私だけは守るだのなんだの、死地にでも行くようだ…」
「間違いじゃないんだよね…間違いじゃないし…うん…君も危ないよねきっとね…耐性がないから…」
「…また貴様が何か、」
「またとは何だい?ちょっと前に妙なことしたのは君だろ?」
「…そう、だが」
「でもまぁ…君は知らないか。今まで街に来てなかったしね…教えてあげるよ」
 
 
サラトナグは道中に説明された現在の状況、というものをよく理解していた。そのバカらしさも、事態の重さも。
 
 
「端的に申し上げます。マザーが、豊年祭の鍋に手を加えようとしています」
「…は?」
ルノーテスラ様のご生誕が、ちょうどこの祭りの時期であったということを思い出されたらしく、手料理を振る舞いたいそうで…」
「…なるほど。あの子、普段リヴァイラのごはんから逃げてるから…」
「ええ。豊年祭の鍋なら流石のルノーテスラ様も手を付けるだろう、と」
「事前にバレて逃げたんだね?優秀だなぁ…」
「まだまだ料理を食べていない国民も多い昼間です。今マザーに参加されては、これから食す国民すべてにマザーの手料理が振る舞われてしまいます…です、ので」
「わかってる。君達には荷が重い件だね」
「現在は、マザーとある程度面識のある者が順に時間を稼ぎに行っていますが、誰も戻ってきていません。恐らく最後の手段【味見に付き合う】をしていると思われます」
「わかった。ルノーテスラを探す人員にできる限り割いて。後は…僕達がやるから」
「…ありがとう、ございます!」
「ただし君は行ってきて。案を練る時間は稼いで」
「もちろんです。部下をいかせておいて、俺一人助かるなど考えておりません」
「…ふっ、それでこそ、僕が選んだ明勲だ」
 
 
 
「ってことだよ」
「まて」
「うん、混乱してると思う。いいかい、リヴァイラの作るご飯は、すごくまずい」
「まつんだ」
「材料におかしなものをいれていなくてもまずい。自由にさせたらもっとまずい。まずい上に毒物かと思うほどに腹を壊す。見た目もおかしくなる。時には死に至る」
「おかしいだろう」
「そうだよおかしいんだよ。しかも本人は自覚がない。それでね…」
 
部屋を見回す。もう残り少ない人数しかいない。サラトナグは背伸びをしルートグランの耳元に唇を寄せようとし、ルートグランも耳を傾ける。
 
「リヴァイラの加護のせいで、他の明勲共はリヴァイラに逆らおうとしたり悲しませようとするととんでもない罪悪感と抵抗感で体が動かなくなるらしくて、止められないんだよ」(ひそひそ
「…それはよくわかった」
「まー、つまり、僕とか君とかならびしっといえると思うんだけど…その…」
「もうわかった。彼女の食事がそこまで不味いというのはよくわからんが、つまるところ、彼女を傷つけられないんだな?お前たちは」
「そう」
「そうか。わたしもだ」
「だよね」
「早くルノーを見つけるぞ」
「君容赦なく息子を…」
ルノーは我が一族の跡取りだ。それで死んだらそれまでの子だっただけの事。ルノーが食せば彼女の目的は到達されるのだろう?」
「そうだと思うよ。多分ね」
 
どことなく納得できないのかルートグランの表情は複雑なものだが、対してサラトナグは腹を括ったような面持ちで、ふぅと息を吐いた
 
「ルート、君に託す」
「…」
「僕は食べたことがある。まだ行けると思う。でも君は厳しいかもしれないし、もしも君が彼女を拒絶したらきっと、彼女は…彼女は誰に言われるよりも君に言われることが一番傷つくと思うんだ。
だから、その、君を心配してるとかじゃなくて、彼女を心配してるのであって、」
「わかったわかった。よくわかった」
「…レインは部下に連れて来させる。君が説得して。
そして、何よりもこれが大事なんだ。いいかい。ゴズウェルだ。ゴンちゃんなら、リヴァイラの食事を平らげられる。多分この国に一人しかいないんだよ、この素質の持ち主は」
「ゴズウェルか…」
「君なら呼べるだろきっと。任せたよ。観光客の口に入ることだけは何とか阻止しなきゃいけない」
「いくのか」
「…できるかぎり、被害は抑えるさ。安心してよ。僕は女性を傷つけるようなことはしない。それが、いい王子様ってやつだからさ」
 
周囲の精霊に手早く指示を出し、一度、自分の頬をバシンと叩いて気合いを入れなおす。
ひらりとコートを翻し。穏やかな笑みで、しかしどことなく自嘲さがうかがえる黒い眼で、ルートグランの濃緑の瞳と見つめ合った。
 
「…まかせたよ」
「ああ。任された」
「…いってくるよ」
「生きて、もどれ」
「はは。この僕が死ぬと思う?」
 
 
そう言い残し、サラトナグは部屋から出て行った。
 
国の有事の際、真っ先に命を削る精霊達、明勲精霊。
その有事がたとえどれほどに下らないきっかけだとしても、どんなことだとしても、彼らは身命を賭して向かうのだ。
 
静かになった部屋で、一人。ルートグランは深く息を吐いた。未だに頭が混乱しているようで、疲れたように椅子に座りこむ。
そして、どれだけの時間が経っただろうか。
 
ココンッコーンッ!
 
「…入りなさい、レイゲンドール」
 
高らかな、特徴的な、調子のよいノックが部屋に響く。
 
国の長達の苦悩はまだ、続く。
 
 

(後編に続く)