ほうさんのお国柄

企画参加用創作ブログ。絵は描けない。文のみ。お腐れ。色々注意。

路違わず、思い重ねず、指交さず

 

聖母エーテランテ様と聖女マリーシャの会話。過去編。個人的にエーテランテ様編として最近書いてます。残るエーテランテ様編は、一つだけ。の予定。

 

 

因みにこの時代関連記事の時系列としては、

 

神子様との戦闘

o-osan.hatenablog.jp

 

第二戦争

 

この記事

 

おじじ過去編 

o-osan.hatenablog.jp

 

サラさん過去編 

o-osan.hatenablog.jp

 

比較的近い時期に革命

o-osan.hatenablog.jp

 

サラさん過去編兼エテ様最終記事(未)

 

第三戦争 

o-osan.hatenablog.jp

 

その他もろもろ

 

本編

 

本編後各記事

 

となってます。

 

白い霧のイメージはドライアイスを水にぶっこんだあの白いもやもや。あれをご想像いただければちょうどいいかと。やったことない???やろう!楽しいから!!

 

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「あら冷たい。これを壊すのは確かに難儀ねぇ」


一寸先も見えぬような白霧の中。一人の少女がそう言った。


「随分と大きくて分厚い。でも中は空洞ね?冬みたいな寒さでしょうけど。どれだけ収容できるのかしら」


その霧の中にそびえ立つ巨大な白い壁。触れて有る事は認識できても全貌を知る事は出来ぬほどの壁を、こんこんと軽くノックをするように叩く。大した音も出ず、静まり返るように全ての物声が霧に、壁に、吸い込まれていった。


少女の美しい金色の髪は霞む事なく、揺らぐ霧の中でただ一つの、凛と確かにそこに有るものだった。その髪の先が揺れ少女が振り返ると、眼前には一段と濃い真白の霧。少女はにっこりと口角を上げ笑みを浮かべて、ふうと息を吹きかけた。そこにあったものは霧ではない。真白の矛。鋭い切っ先が、そのものが、冷気として霧を発していた。


「ようやく来た。客を待たせるなんて。しかもこのあたしを。随分と荒々しい歓迎ね」
「…貴女の様なものが、立ち入るとは、何事か」
「貴女に会いに来ただけよエーテランテ。今は聖母様、だったかしら。国を別ち戦を納め、弱き精霊を守り暮らす慈しみの女性。そう聞いたわ。ねぇ、お話ししましょ?」


その霧の中からの問いかけに、怖じることなく応え手を伸ばす。少女の指先が触れたのは、冷たい冷たい、


「貴女ってこの壁より冷たいのね。抱くのにも一苦労しそう」


女の、肌。

 

 

 


「初めましてエーテランテ。貴女の庭に入れてくれた事。先ずはそれに感謝するわ」
「…初めまして。貴女が、聖女。そうでしょう」
「話が早すぎるわね!貴女って世間話をしようって気もないの?」


白霧の中から現れた女は凍てつく冷気を放つ巨壁を断ち、少女を中へと招いた。その中は外よりかは薄いながらも霧の満ちる、冷ややかな、静かな、村。天井は壁が薄いのか、薄暗いながらも光は射していた。


清水の湧く井戸の側で、遠くに見える畑を耕す数人の住民を見ながら、語る。


「ま、そうね。お天気の話をしたって無駄でしょうし。
確かに向こうで聖女って呼ばれてたわ。名前はマリーシャ。メルトクリスの血筋、7代目の女。貴女の遠い遠い遠い親戚に当たるわ」
「そう。あの女傑一家、まだ続いていたの」
「ええ。あたしは逃げちゃったけど」
「何故来たの。親戚に会いに来た、訳ではないでしょう。噂に聞く限り、貴女は穢れを何より嫌う聖浄の娘。この地に来るとは思えない」
「当然よね。こっちで清浄な気の満ちた場所なんてないもの。貴女の側以外」


石造りの井戸に腰掛け、少女は見渡す。白霞、灰石、茶土。緑の少ない村。


「貴女、いつまでバカなことしてるの?」
「…滅びの時が、来るまで」
「聞き方を変えようかしら。いつからそんな馬鹿になったの?」


女は表情をかえることなく、少女の隣に腰掛けた。


「約束を、したから。祖と。」
「あのじじいね。会ったことないけど、魔力でわかるわ。ロクでもない奴でしょ」
「そう、ね。どうしようもない、方だった。私では、どうしようもないお方」
「何約束したか知らないけど、粗方想像はつくわ。子供達の行く末を見届けて欲しいとか、滅びまで手を出さないで欲しいとか、そんな事でしょ?」
「…そうだと、言ったら?」
「くだらないって笑い飛ばしたい所よ」
「そうでしょうね。きっと、貴女はそう言うと思う。聖女。貴女は正しい」


何処からともなく、閉ざされているはずのその空間に風が吹く。冷たい冷たい風が。エーテランテ、その女の元へ吹き込んで来る。少女は溜息をついて、その寒さに動じる事なく続けた。


「あたしの考えは変わらないけど、でもまだ、貴女は生きている。まだ貴女の時代なのよエーテランテ。あたしは貴女のする事に手出しはしない」


遠くに見える住民の精霊達が、縮こまるように身体を摩っていた。それでも、彼等は和気藹々と笑んでいる。


「ただ、ちゃんと考えて。後、何年保つのか。貴女自身が。


今の指導者がどうしようもない臆病者なのは貴女も知ってるでしょう。アレは絶対に貴女の助けにはならないわ。それと、少し見て来たけど…多分ね、人間達が廃れるよりも先に、きっと…貴女が、死ぬ」


「…聖女。それは、何故に?」
「別に。ただの勘よ。このままなら、まだ、貴女は保つかもしれない。貴女の守ってる精霊達も、まだ数が増えてもなんとかなるでしょうね。


でも、このままではいかないわ。だってあの人間達は欲深いもの。賢く愚かで無力。

一度起こされ転がった石は止まれない。進む程にその速度は増す。いつかは砕ける。いつかは。…それまでに、多大なる影響、破壊を巻き込んで。それは、きっと貴女を滅ぼすわ」
「…心に、刻もう。その言葉を」
「覚えておいてエーテランテ。
次代の指導者が産まれた。そしてあの血筋は動いた。けれど、まだどうなるかはあたしにもわからない。あたしはあのじじいの血筋の内情に手は出さないから。
でももし。今の指導者か、あるいは次の指導者が誤った答えを出した時は。あたしは精霊すらも天啓に叛く者共として裁く。全てをやり直すわ。たとえ貴女が生きていても。貴女の時代であったとしても。あたしが、全部。」


「マリーシャ」


「…何?」


「よろしく、お願いする」


「何よそれ。あたしの言ってる意味わかった?」


「ええ、勿論。貴女は私に、生きろと、言いにきた。そうでしょう」


「…わかったなら、いいのよ。いい!?絶対に死ぬんじゃないわよ!あたし貴女の事好きよ。馬鹿な事してるとは思うけど、でも、でもね。するなら、ちゃんと、しきりなさいよね。貴女の選んだ事、邪魔は、しないから。


次に貴女に会える時が、貴女を迎えに来れる時だといいわね。精々、気張りなさいよエーテランテ」
「ありがとう聖女マリーシャ。貴女の心遣いに、感謝する。…貴女に、もう一度会える事、私も願おう」
「…貴女の敬愛する祖の血が、愚かでない事を、祈りなさいな」


少女は立ち上がり、白い服の裾を翻す。陽光を束ねた様な金色の髪が、広大な海原を丸めた眼が、揺れて、エーテランテの手を取る。


「貴女って、ほんと馬鹿よ。ほんと、馬鹿」
「ええ、そうでしょうねマリーシャ。私も、そう思う。


さようならマリーシャ。貴女はきっと、穢れなき海の底でその時を待つのでしょう。貴女は美しく正しく有ってほしい。いずれ、貴女を起こしてしまう私を、貴女に託す私を、愚かであると。思ってくれれば、それで、いい」


薄霧が退き一条の道を示す。それは少女の為の道。閉ざされた堅牢な村からの、入る事は出来ぬ、不帰の出口だった。


「またね」


そうして少女は去っていく。村を後にする。女を置いて、霧の中へ消えていく。いや、霧の外へ、消えていく。


女は述う。


「この地に、私の庇護を求む者がいる限り、私は聖母であろう。母とは、命にかえてでも、子等を守るものなのだから」

 


少女は零す。


「助けて、って。たった、その一言だけで、いいはずなのに。何故、美しきものが、溶け朽ちねばならないのかしらね」

 


島は荒れる。国は荒れる。命は荒れる。その先に残る物を、まだ誰もが、わからなかった頃。命を憂う、二人の女の話。