ほうさんのお国柄

企画参加用創作ブログ。絵は描けない。文のみ。お腐れ。色々注意。

わかめしゃんとお師匠と、鴉さんと巫覡様は染さん

続き。(?)思った以上に真面目になってしまった…。
 
 
設定
 
わかめしゃん
若いころの巫覡様こと緋染さん。お師匠が事あるごとに自分の名前を呼んでくるのが少しウザったい
 
お師匠
当時の巫覡さま。すごい人なのはわかるんだけど色々残念。心は弱め。プライドは高いがわかめしゃんにはメロメロ。
 
当時と設定
島がまだ浮いてる頃。現在からずーーーーーっと前。
神事には10になった子が参加できるようになる。大抵参加するけど一応参加は自由。引退した翁と呼ばれる各集落の年寄りたちが運営をしたりしている。
 
 
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「無駄だとは思うがお師匠の名誉のために先に、一応手は出されんかったと言っておくぞ」
「もう大分手遅れだと思うな俺は」
「儂もそう思う」
 
 
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「うう…緋染…すまない…本当にすまない…」
「…」
「気をつけていた…つもりだったんだが…ケホッ…」
「…」
「いや…心配はいらないよ…務めはなんとか終えた…なんとか…」
「それは義務ですから当然では?」
「心配のかけらくらい…褒めてくれたって…」
「…侍女様方が粥を作ってくださいました」
「ふぅふぅ♡して食べさせてくれたっていいんだよ緋染…」
「…巫覡様には神の庇護があるというのに風邪をひくなんて」
「ふふ…私も驚いたよ…ふぇげっほ!!うう…」
「…この粥、食べても無駄ですよね。食べていいですか?」
「え…それは口移しで食べさせてくれる流れかい…?勿論だとも…ハァハァ…」
「…粥より精のつくものを食べた方がいいでしょうお師匠は…」
「…」
「自慰行為のしすぎで気絶してそのまま冬場に全裸で眠ったなんて侍女様方が聞いたら泣きますよ」
「間違いないな…うん…君に淡々と告げられると…またそれも堪らないな…」
「…薬ならご自身の物を勝手にお飲みください」
「緋染…君が作ってくれたりしないのかい…」
「仮にも巫覡様という方が何を。それに…おれのは呑みたくないでしょう…」
「君の理念と製法を認めるか否かということと…君が私のために…調薬してくれるという喜びは別なんだよ緋染…」
「…」
「なんなら…膝枕でも十分効く…元気になるよ私は…」(ハァハァ
「…なってはいけませんよ…どうせまた無茶をするから…」
「ああ…何処がどのように元気になるかが全部筒抜けだ…恥ずかしいな…ふふ…」
「…」(すっ
「…作ってるじゃないか…!」
「…丁度よく病人がいたので試薬したいだけですから…」
「…粉か…噎せたらすまない…」
「…」(ごくごく
「!?」
「…ん、」
「待つんだちょっと待つんだえっ夢ンッフ」
「…」
「…」
「…んん、ぷは、」
「ぷはっ、ふはっ、もういっ、もういっかい!!!もういっかい!!!!」
「…」(片付け
「もう一回!!!もう一回!!!お願いだ!!もう一回口吸いをしておくれ緋染〜!!」
「…接吻ではないですけど…」
「あぁ〜君とのお初がこんなにも色気も何もないものになるなんてぇえええうわぁああああ」
「…元気になったみたいで、何よりです」
「ぐすっ…苦い…うう…味を覚えていられないほど頭が熱いよ…柔らかかったしか覚えていない…ううっ、ううう…」
「…すごく不味いものだったので、覚えていなくていいです。吐き出さずに呑んでくれて、よかった。いい方法ですね」
「緋染ぇ…」
「…」
 
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「染さん、最初の話がそれでいいの???」
「これがな、最後だ」
「何の最後…」
「ただ仲が良かった、最後。だから…記念にな…」
「…」
 
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「…はぁ」
「…お師匠」
「うん…?どうしたんだい緋染…眠れないのかい…?」
「…眠れないのは、お師匠の方では…?」
「…そうだね、間違いないな。眠れないよ…」
「…」
「考えてばかりだ…いや…考える事は苦痛ではない…悩むから…停滞するから苦しいと感じるんだ…」
「…」
「進まねば…ならないんだろうね…」
「…お師匠、一緒に、寝ましょうか」
「…ああ。ありがとう緋染…優しい子だね…」
「…好きにしても、いいんですよ」
「なら、強く、強く…抱き締めてもいいかな…私の腕の中に、いてほしい…」
「…ご勝手に」
「…私は一体、どうすればよいのだろうか…」
「…」
「…少し、出かけてくるよ」
「…いつ?」
「近々だ。日付が変わったら奉納を済ませて出る。大丈夫、次の日が終わるまでには必ず帰るから」
「当然ですよね、責務です」
「ふふ…やはり心配はしてくれないんだね…」
「…必要がありますか?今、最も強きお力を授かっている巫覡様を」
「全く必要ないさ…うん…そうなんだけれどね…寂しいとか…」
「…ないですね」
「君はそうだろうね緋染…」
「…どこまで、行かれるのですか?」
「…決めていないよ。私は新しいものを探しに行くのだから」
「…そうですか。いってらっしゃいませ」
「庭の世話だけ頼んでもいいかな?」
「…はい。わかりました」
「ありがとう。私がいなくてもきちんと食事を摂って…」
「…」
「その顔はまた調薬に没頭しようとしていた顔だね…私が帰った時、君の可愛い顔に隈が浮かんでいたら…お仕置きしてしまうよ緋染…」
「…具体的には何を?」
「…それを聞くのかい…?」
「…」
「あーっと…うーん…お仕置き…ふふっ…そうだね…ふふ…」
「それはお師匠のしたいこと、では?」
「ああ…間違いないね…すまない…」
「変態…」
「ふふ…何も言い返せないよ…」
「ではお気をつけて」
「あっさりだね緋染…」
 
 
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「…まだ、起きているのかな」
「…はい」
「起きていたんだね。ただいま緋染…」
「…お帰りなさい、お師匠」
「ああ…御堂に…行くから…おやすみ…」
「…」
「待っていてくれてありがとう緋染…可愛い緋染…」
「偶然ですけど…」
「少しくらい夢を見せてくれてもいいんだよ緋染…御堂での調薬が終わったら…一緒に寝てもいいかな…」
「…構いませんが、風呂には入ってください。…すごく、血の匂いがする」
「…久々の狩りだったからね…返り血を浴びてしまった…うん…」
「…何を、狩ったんですか」
「…秘密だよ、緋染」
「おれには見せらないもの、ですか」
「そうだね…御堂に大事に保管しなければならないものだ…」
「…とても貴重な品なんですね」
「…そうだよ。とても、とてもだ」
「…いつか、見ます」
「…ああ。そうなさい。いつか…ね」
「…」
 
 
 
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「…お師匠、お客様が来てますよ」
「…ああ。わかってる」
「…お帰り願いますか?」
「…何故?」
「…いえ。なんでもないです」
「…そうか。ありがとう緋染。大丈夫だよ…君は中にいればいい」
「…はい」
 
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「…どうでしたか」
「…ああいや、何も。何もなかったよ…」
「何もないのに、村の者が巫覡様を訪ねますか?」
「…なら、君は知る由のない事だ、というのもわかるね?賢い子」
「…はい。でも、少し、やつれてますよ、お師匠」
「それは、心配、かい…?」
「…いえ、別に。関係ないです」
「…はぁ…緋染…私は…私は…君を…」
「…お師匠。おれは貴方に何もできませんから…」
「君は、つれなくて、冷たいな…」
「そんなことはわかりきってたでしょうお師匠…」
「そうだね…そしてそれが…好きなんだ…」
「…どうしようもないですね本当に」
「本当に…私もそう思うんだ…でも…」
「…」
「今日は君に頬ずりしながら寝てもいいかい緋染…」
「いつもしてるじゃないですか…」
「いつも以上に…」
「…はぁ」
 
 
 
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「その頃からなぁ…お師匠はずっと機嫌が悪くてな。寝付かんしすぐに塞ぎ込むし…一緒におると泣くしおらんと暴れるしでなぁ…ちょっとふざけさせてやらんとずっと病んどった」
「何しててもヤバイってヤバイね」
「そうだな。擁護もできん位にはヤバかった」
「でも少しだけその気持ちはわかるよ。染さんもわかるんだろ?当時は知らないけどさ」
「ああ。よぅわかる。当時は何甘えとるんだと思っとった」
「そういうの意識高い系って言うんだよ」
「意識高い系のガキじゃった」
「素直だ…」
「そしてこれがお師匠を壊してしまったエピソードなんだが…」
「…心して聞くとするよ」
 
 
 
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「お師匠、お食事です…召し上がれますか」
「…置いておいてくれ」
「はい」
「…はぁ…」
「…」
「骨渓も駄目か…眼球…幼体の角なら…」(ぶつぶつ
「…お師匠、確かに幼体の方が効力は優れていますが、幼体の角は脳に直結してます。それに保護対象の生物なはずです。そんな酷い事をしなくとも、彼等の主食から精製すれば済みます」
「…ふぅ。それが出来れば苦労しない」
「できます。唯一無二の効力を持つ物の方が少ないです。代用はいくらでも利きます」
「赤群の葉は確かに群生していて量は多い。しかしながら加工には向かないとされているだろう。なんの効力もない」
「それはもう色の変わった葉だからです。骨渓が食べるのは赤群の若葉と実。若葉ならまだ薬効成分は残っていて、若葉が赤く染まる前の夜のうちに葉の裏を炙れば厚い青の葉ができます。朝露と共に刻んで搾れば、余程少ない量で、」
「何故君がそんな事を知っている」
「調べたから」
「っ、たかが八つの子が何を言うのか!」
「野生種の動物達の持つ薬効成分なんてその殆どが主食の植物や雑多なものの累積に過ぎません。それが体のごく一部に蓄積されるから素材となるだけで、その為だけに狩っていてはすぐに彼等はいなくなってしまいます」
「だからこそ貴重な物として扱って…!」
「師匠や翁達の言葉には強い矛盾を感じます。権威を持つ者だけが扱える物とする、のは保護ではない。だって現にお師匠は、行き詰まってより希少で貴重な物に見境なく節度無く手を出し始めた。より個体数の少ない命を使い始めた。楽だから、です。貴重なら優れているだろうという歴史の過ちに則ってです。優れた腕を持っているはずの者ほど希少な命を容易に狩るのは、正しくないでしょう」
「…緋染、」
「もしそれが正しいというのなら、おれが本当に不死を齎す緋色の鳥だと言ったら、お師匠はおれを殺しますか。おれの脳を煎じますか。その血濡れた手で正しいと言うんですよね。貴方達の言っていることはそういうことだ。権威あるものは、最上のために、より酷く命を殺めて、楽をしてもいいと」
「…緋染、自生する植物達の持つ効力は確かに素晴らしいものが多いよ。しかしながらその形態は実に様々で不安定である事も多い。今までそれらに手を出して命を落としたものがどれだけいるだろう。その地に生きる動物達はそれらに適応し、それら毒や安定性に欠ける物をより安全に精製する能力を持っている。その力を借りる事は、私達緋の鳥達が生きる上で重要な事であり、先人達の見出した活路でもあるんだよその恩恵は享受すべきだ」
「おれは先人達の犠牲と努力は否定してない。おれだって先人達の知恵を元に新たな方法を模索していますから。
おれが言いたいのは、その先人達の骸の上にいつまでものうのうと胡座をかくのは正しいのですかという事。ただでさえ島の薬湯の効能は毎年代わる。先人達の頃とは動植物達の特性も少しずつ変化しているというのに、百年前の書物なんて、参考になれど最適解であるはずがない。
それらに頼り切るなんて、怠慢(努力不足)以外の、なんなんですか?」
「ッ君に!!君のような天才に!!凡者の何がわかる!!!」
「おれはおれの事を天才なんて思ってないです。お師匠こそ、天才、でしょう」
 
 
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「わかるか、百年近い長年の努力をたかが八つのガキが上回って、それを努力不足の怠慢だろうと宣われたお師匠の気持ちが…」
「…染さん…」
「ほんと…クソガキだった…」
「そんなに他人の気持ちわからなかったのかい…」
「わからんかったんだろうなぁ…いや、わかっとったんだ。その上で、それが嫌いだった。何より、儂はその時も、お師匠はこっち側、だと信じとったんだ。言えばわかってくれるとまだ信じとったんだ。アホじゃのう。そんな訳ないっちゅうのに」
「天才はいつの世も孤独なんだね…」
「自分が天才とか、あんまり言いたくないがのぉ。ま、お師匠とはそんなとこだな」
「その後は?」
「…泣かせてしまった。お前に何がわかるのかと首を絞められたのは覚えとる。結局次の神事の頃までは儂も社におったが…終わった時に追い出された。このままでは君を殺してしまいそうだと言われたな」
「悲しい話だねぇ」
「あんまりそう思ってないじゃろー」
「染さんには思ってないけど、お師匠さんには思ってるよ。好きな人に自分の事を否定されて受け入れてもらえなかったのは、お師匠さんも一緒でしょ?」
「…も?」
「あれ、違うのかな」
「…わからんなぁ」
「染さんもしかして自分の恋心がよくわからないからって他人の恋愛事情に同調してときめいてるの?タチが悪いな…」
「言われてみればそうなのかもしれんが…あの変態師匠をか…嫌いではないがなぁ今でも…」
「…亡くなられてるんだよね?当然」
「ん?おお、そうだな。死んだぞ。あー…結局次の年の神事の前に、ふらっと儂の所に現れてなぁ、もうおかしくなっとって」
「ずっとだけどね」
「ずっとだけどな。君に勝つには君を使うしかないんだと儂を殺そうとしたから…」
「そこまで行ってしまったんだねぇ」
「予想通りだったがなぁ。そうなってしまうと思っとった」
「…染さんが殺したのかい」
「いやその時は、ちゃんとお師匠様でいてくださいねと言ったのに、と言ったらまた泣き崩れて何処かに去って行った」
「あぁ…」
「儂はなぁ…いつだって、言ってくれれば、弟子として羽でも血でもいくらでも渡したっちゅうのになぁ。…材料として見られてしまったら、もう、終いじゃ」
「染さん…」
「それからはもうずっと、儂が巫覡をやっとる。一度たりとも、他の者に座を渡した事もない。お師匠は…気付いた時にはな、もう神事にも現れんくなっとった」
「お師匠さん、何か、言ってた?」
「君は巫覡になるべきじゃないと言われたな」
「怒らなかったの?」
「酷い言葉とも思わんからな。当然とさえ言える。
 
儂は巫覡は神さんの物だと思っとる。神さんに捧げるために調薬を続ける、神に捧げられた者だとな。
 
でも、お師匠は巫覡を緋の鳥の物だと思っとった。毎日調薬だけをし続ける事を許された者。それは緋の鳥の繁栄の為の効率の良いシステムだ。腕のいい者に没頭させてより叡智を高める為のな。
その理論でいうと…自分の作ったモンを記録もしない、誰にも解けない設計図で、誰も使いこなせない技法で、自分にしか作れないもの、を作り続ける独りよがりなガキは…相応しくない。
 
だからお師匠は儂を巫覡にしたいと思わんかった。巫覡の薬は大衆のものでないといけなかったんじゃ。同じ材料を使えば100回作っても100回同じものに、誰でも作れる。その確立こそが、巫覡の仕事だった。だから巫覡は年毎にころころと代わり、各々が得手を極め、互いが研鑽し、書に認め、少しずつ少しずつ精度を高めていた。
巫覡にしか作れん薬を作る巫覡なんぞ、あの時代では、受け入れられるワケがなかったんじゃ」
 
 
「…俺が知ってる巫覡様は、染さんだけだ」
「ああ」
「俺の頃には、神事は、神様に仕える巫覡様に、その年の自分の成果を見極めて貰って、神託でもある巫覡様のお薬を、一年かけてみんなで解き明かそうって感じだった。俺なんて小さい頃、巫覡様は世襲制だと思ってたくらいだ。誰も巫覡を目指していなかった。巫覡様が、唯一の正解だった」
「ああ。そうなっとったな。それでいい。確かに研鑽は無くなった。だが裏を搔こうなどという思考も無くなった。惨い話も聞かんくなったし、過剰に狩られすぎる動物も減った。組み合わせを考える中で、多角な思考と独自性が伸びていった。そうだろう鴉」
「…そうだね。確かに俺は、勝ちたいから誰も使わないようなものを使おう、なんて考えた事もない。誰かと違うもの、を作ろうとした事もないな。
俺は味を重視して、俺の作りたいものを作ってる。この島に戻ってきた緋の鳥達も、みんなそうだ。自分の作りたいものを作ってるよ。巫覡様がいてくれるから、みんな安心して、責務無く好き勝手にやれるんだね」
「…儂は今でも、幼い頃の自分を間違っているとは思わん。勝利への欲求は、いつか種を滅ぼすと思っとる。なら、儂はいつまでも最上で有ってみせる。勝ちたいなどと思わせん程に圧倒的で有り続ける。儂こそが巫覡になってやると、お師匠にもデカイ口叩いたからのう。儂は儂に出来るやり方で、この島と民を導かんとならん…そういう、意地じゃな、もう。儂の負けん気とお師匠の負けん気のどっちが強かったかと、それだけの話だ」
「…染さんは、昔は知らないけどさ。ちゃんと、巫覡様だと思うよ。俺が知る限りこの島の生態系が揺れたのは、虐殺があった時と島を降ろした時だけだ。どっちも…染さんにはどうしようもない事態だったろ。それ以外に関しては平定を保ってると思うし、この島自体はずっと豊かだ。俺が迫害されてたのは…まぁアレは翁達と長の判断だしなぁ。巫覡様に文句を言う気はない。こういう話、俺以外にしたことはある?」
「…ないぞ」
「そっか。じゃ、遅くなったけど俺が褒めてあげるよ染さん。よく頑張ったね。染さんは立派な巫覡様だ。今まで散々色々あったと思うけど…今のあなたに文句を言う奴なんて誰一人としていないさ。はは、お師匠様の話を聞こうと思ってただけだったんだけど、まさかこんな話になるなんて思っていなk…染さん!?どうして泣いてるの!?」
「おまえ…鴉お前…」(涙だらだら
「手がかかるな…ほら拭いて…」
「うう…すまん…なんか出てきた…」
「うん…驚いたよ無言で泣くなんて…。堰を切ったように、ってこういう事を言うのかな。染さんは確かに巫覡様で、俺を育ててくれたお方だけどさ。俺だってもう自立したし、俺を友人として扱って何か吐き出したって、何も悪いことはないと思うよ。傷つかなさには自信があるし」
「それはお前…素直にうんとは言えんぞ…」
「染さん子供のころから変わってないんだね実は。甘えるのどへたくそだ」
「…」
「自分を甘やかすのが、かな」
「透音、お前、大人になったなぁ」
「おかげさまです」
「儂は、正直いってまともに育ててもらった記憶がない。自分からそれを放棄したからな。母親は正直顔を覚えとらんし父親とかおった記憶もない。お師匠はあんなのだ。それ以外、幼少期に関わりを持った大人がおらん」
「よく成長できたね染さん」
「世話をしてくれた侍女達も途中から儂の…なんだ…精子狙いに…なってしまって…全員追い払った…」
「さぞかしおモテになったんだね…確かに、女性型が見たら堪らないんだろうね染さんは…色々と…」
「喜んでいいんだか面倒なんだかわかりゃしないが、そんなんだったからな。そんな儂に育てられて…よくいい子に育ってくれた。
本当に、そう思うんだぞ。ありがとうな」
「結局子ども扱いじゃないか。全く染さんったら」
 
「…だからなぁ鴉。今から三つだけ、言いたいことと、聞いてほしい事と、頼みたいことがある」
「なんだい藪から棒に。それで楽になるならいくらでも」
「聞いたら忘れてほしい事でもある」
「保証はできないけど、心するよ。都合のいい忘却は得意だ」
「まず、言いたいことだ。先までの話で儂は意図的に…一つの嘘と、いくつかの隠し事をした」
「…ああ」
「次は頼みたいことだ。この一つの嘘を、許してほしい。嘘をつかせ続けさせてほしい。儂はこの嘘を死ぬまで抱えていたいんじゃ。これを、儂を友と言ってくれたお前への、唯一の裏切りとさせてくれ」
「…勿論許そう。嘘の一つや二つ。そして忘れるよ。貴方は気にせずにこれからも笑うといい。俺はそれを望んでいる」
「…感謝する。そして、聞いてほしい事だ。それは、儂が意図的に隠した事だ。
 
 
儂は、俺はなぁ、わかっとったことがあってな。当時…師匠がおかしくなった頃にな…お師匠が社を出た夜…お師匠が、当時奉られとった神獣を殺めたことを、気付いていた」
「…」
「お師匠が俺の言葉で傷ついた後、お師匠は変わらず俺を愛していたが…あの頃から起き始めた緋の鳥の相次ぐ不審な失踪がお師匠によるものだと、気付いとった。お師匠が、とうとう、同族を殺め始めたのを気付いとったんだ…」
「…うん」
「知りながらも俺はそれを黙った。まだ擁護のしようはある。その頃は神事に加われず神力も授かっていない頃だ…追及したところで己が死ぬだけなのだから仕方がないとな。
だが、別に我が身可愛さで黙ったわけじゃない。俺が、見知らぬ者達より、お師匠を取ったんだ。何人も死んだ。その度に村の翁達は巫覡であるお師匠に報告に来た。何度でも告発は出来た。それでも俺は黙った。黙って、血に濡れていくお師匠を、迎え続けたんだ。その内お師匠が毟るのは俺の羽になるともわかってた。それでも黙認した。俺と歳の変わらん、ちゃんと親に愛された幼子が死んでもな。それでも俺は、止めようとしなかった。それを、罪でないなどとは言えん。
…これだけで、巫覡を名乗る資格はなかったと十分言えるだろうなぁ」
「…」
「そしてその行方不明の一連は…結局、鴉の仕業、とされた。お師匠の一言でだ。鴉は、そんな頻繁に緋の鳥を攫う奴等じゃない。勿論当時から好かれてはおらん鳥だった。だがな、だが、同じ島、同じ理で生きる種同士、仕方がない事だとされていたんだ。…鴉が極度に忌み嫌われるようになったのはその時からだ。俺が関わりを持って存在を認識した黒羽の同族はお前だけだが、俺の知らないところで翁たちに葬られたり、死んだ黒羽もいたのかもしれない。月に愛された黒羽だと、誰にも知られず疎まれて死んだ者が、もしかしたら多くいたのかもしれない。
 
もしも俺が、責務を果たしていたら…お前は月の子と愛されていたのかもしれない。疎まれることなく、棄てられることもなく、暮らしていたのかもしれない…
 
…」
 
「…聞いてほしいのは、それだけかい、染さん。今ならまだ頼みごとをもう一つ追加しても大丈夫だよ」
「いいや。これで終いじゃ」
「そうか。本当にあなたは無欲だな。懺悔してお仕舞?」
「そうだな、懺悔じゃ。吐いて楽になる。だが、許されるともおもっとらん。お前の感情はお前の物だ、鴉」
「…そうだね。うん、そうかそうか。どうだろう。俺が許さず、俺の幼いころに感じた苦痛を、今染さんにぶつける可能性が…正直どのくらいの割合であると思う?」
「正直にか。…実は思わんな、本音で」
「心配になるくらいお人よしの染さんだから、俺が許すと思って告白した何て打算的なことはないと思うけど。聞いても、別に何も思わないな。そうだね、許すとするなら…
 
…うん。つまり染さんの告白はこうだ。
誰が死のうが、自分が死のうが関係なく、自分の愛した人を失いたくなかった。だから愛する人の過ちすらも受け入れ続けた。そしてその報いが思わぬ所で、遠い未来に、自分に縁がある者に災難として降りかかった。それがお前だ、すまん。こういうことだろ」
「そうなのか…?」
「そうだと思うけどな。それでね、俺はその気持ちがよくわかる。俺でもきっとそうするよ。例え愛した人が明らかな過ちを犯しても。無差別に牙を剥いても。その牙がいつか自分に向くかもしれなくても。俺は愛するのをやめない。やめられないさ。だって、その人が自分にとって、何よりも、自分よりも愛おしいんだから。その結果がどうなろうと、仕方がない。俺はそれを受け入れる。
俺は俺の考えを貫くために、貴方の過ちも許容しなければならないね。簡単なことだ」
「お前なぁ…」
「それに…俺はあんまり自分に興味がない。それがもう過ぎ去った自分なら尚更だ。怒れる程、記憶がないんだよ。忘れるのは得意って言っただろ?」
「それは儂が心配しとるところでもあるんだがな…」
「はは。だから、何の問題もない。もしも俺が同じ状況になった時、俺は容赦なく貴方を捨てる。貴方を殺そうとするかもしれない。でも貴方はそれを受け入れる必要はないが…恨むこともできない。妥当だろ?それを染さんが認めるだけで、この話は終わりってことだ。お互い気が楽になってよかったじゃないか。酒でも飲めば、いつもと変わらない明日が来る。…何か、おかしい所はある?」
「…ふう。そうか、よくわかった。
そーの肝の据わりは実に見習いたいところだな。お前がそれでいいならそれでいいんだ友よ!飲むか!」
「そーだそーだ!」
「ほどほどにしとくんじゃぞお前は。ぶっ倒れたら看病に鬼っ子を呼んでやる」
「ああ、それは飲みすぎろってことだね。いつもの倍のペースで飲むとするよ」
「あっはっは!!好きにしろ!楽しんで生きろよ鴉!!」