ほうさんのお国柄

企画参加用創作ブログ。絵は描けない。文のみ。お腐れ。色々注意。

屍人 前章③

ようやく出来上がった前章③です。1万字くらいありますけどこのうち5000文字位は意味無い内容です。いやもっとかもしれない。読み飛ばす位でちょうどいいのではなかろうか。
 
でもサラトナグさんが出てくると会話文だけで話が進むのでありがたいですよほんと。真面目に仕事するからね。おいたんもね。仕事するからね。ただちょっとこの後はまた進み遅くなりそう。シリアスシリーズだからね。仕方ないね。
 
僕ちゃんと精霊やってる精霊さんたち大好きなんだよね。それを見る為だけにss書きたくなるからね。つまり精霊やって(精霊するという動詞)ますから人間sage気味なのが苦手だったらごめんなさいね。
ちょっとだけ魔力の解釈を喋ってる。そういうのすこ。僕の趣味。
 
あと相変わらずだけどアダネアおいたんがサラトナグさんのことナチュラルに好きすぎるのでBL風味は注意。いつも通りっちゃいつも通りなんだけど。僕の中でサラアダはBLというよりもう一つの概念(妄言)。
 

 

============================
 
 
 
【王城の話】
 
 
サラトナグが訪れたのは王城だった。高く堅牢な城壁、継ぎ目の見られない、一つの巨大な岩から削りだされて作られている雄大な建造物。街、国を一望できる丘の上にそびえ立つ、精霊族の統治の証である。立ち寄る者は少なく、サラトナグは門番に一言告げて城内に足を踏み入れた。
 
豪勢な造りをしている。中庭を囲う廊下を陽光を浴びながら渡り、小さな管理者のいる部屋までやってきた。分厚い扉を開けると視界に入るのは無数の巨大な本棚。本の森と言えるその中を、本を抱えながらちょこまかと動く子供の姿がある。サラトナグはほんのすこし微笑み、その子供に呼びかけた。
 
「ティリスディウス」
「…? あっ!サラさま!いらっしゃいませ!」
 
少年とも少女ともわからないが実に可愛らしい顔をした愛児が、サラトナグに向かって深々とお辞儀をする。毎日、引き摺りそうな程に裾の長いコートを着て、広い部屋を動き回り、低い背で懸命に腕を伸ばし本を取る、書物庫の主。その存在自体が一つの国家書庫と言っても過言ではない存在だが、
 
「や!これお土産。休憩時間に食べてね」
「わぁ~!!お砂糖のくだものです!やたっ!やたー!!ありがとうございます~!!」
 
その姿はどう見ても、実に無邪気な可愛らしい幼子そのものだった。
 
 
「ちょっとお願いがあるんだけど、屍人研究に触れてる書物あるよね?」
「はい!あります!」
「一番新しい一冊、持ってきてくれない?」
「はい!かしこまりました!」
 
ティリスディウスはまたぺこりとお辞儀をすると、持っていた本を机の上に置き、棚の森へ消えていった。サラトナグは、机の上の一字一句大きさも濃淡さえもまるで同じな二冊の本を眺めたり、窓から差し込む日光に当たって眠っている大きな亀の傍に寄ったりしながらティリスディウスが戻るのを待っていたが、待てども待てども戻らない。梯子を運んでいるような音もしない。
 
「…テディ?」
 
消えていった方向を追って探してみると、本棚の前でぼうっと直立しているティリスディウスの姿。視線の先には数冊出された抜けた穴だけがぽっかりと空いている。
サラトナグはああ、とひとりでに納得した。
「僕の前にここにある本誰かが持ちだした?」
「…はい!」
「誰?アダネア君?」
「はい!アダネア様です!」
「成程ね。ありがとテディ。通常業務に戻っていいよ」
「はい!戻ります!お菓子ありがとうございました!」
「うんうん、テディはかわいいねぇ」
 
 
ティリスディウスの頭を撫でて、書物庫を後にする。サラトナグが思っていた以上に、いや、言われてみれば当然だと思えるほどに、彼の部下は優秀だったらしい。
サラトナグの為になら死ぬこと以外何でもできると言える程の、随分と過激で優秀な部下。王城警備隊の数人とすれ違いながら彼の執務室へ向かう。王城の中でも奥まった一室、商人管理協会の長の執務室。数度のノックに静かに返されたどうぞの声に、豪奢な扉を開けた。
 
=====
 
「遅かったですねばば様。自分への信頼が足りないのでは?」
「いやいや心から信頼してるよ?勿論!」
「そうですか。いい子で可愛いテディたそにデレデレ頬を緩ませてお土産まで持って真っ先に向かうとは随分と懇意にしていらっしゃる」
「そりゃまぁあの子は心配だしさ?それは嫉妬かい?」
「そうですよ。折角ばば様の為に残さず資料を集め情報もまとめたというのにその労力と献身と愛情を無下にされたようで傷つきました。責任取ってください」
「もー、ありがとうね僕の可愛いアダネア。感謝してるよ。流石だなぁ優秀だなぁ」
「その薄っぺらいお言葉の為に自分は日夜懸命に働いているわけです。では席にどうぞ」
 
サラトナグが来ることを分かっていたのであろう商人管理協会の長、アダネア。室内にはコーヒーの薫りが満ちており、広いテーブルの上に様々な資料と本が並べられ、既にいくつか【結論】と思わしきものが書き付けられている。資料に書かれた日付は古いもので250年前近く。さて、と一言置きながら湯気の上がる淹れたてのコーヒーを出し、アダネアは報告を始めた。
 
 
「まず、送られた手紙についてです」
「うん。それが来たから僕は街まで遥々来たんだけどさ」
サラトナグは懐から封筒を取り出しアダネアに手渡す。サラトナグの元に鳥が運んだ一通の手紙。それに対しアダネアは五通の手紙を差し出し返した。互いにその内容を確認し、なるほど、とサラトナグは溢した。
 
「一目瞭然か」
「ええ。まぁ、上層部がこれだけ密接に繋がってるとは思わないでしょうから、ガバガバな予想を立てるのも致し方ないですね。ざまあみろです」
並べられた計六枚の手紙。国を仕切る各局の長達それぞれに向けて送られた招待状。ほぼ同じ内容の中で一点、それぞれに異なる記述が存在した。その場所をつつ、となぞり、目を細め見下ろす。
 
「一人ずつ呼ぶっていうのは、接待上の理由かそれとも、果たしてなんなんだろうねぇ」
 
記載されている招待の日付、それぞれに数日のずれがある。一つたりとも同じ日付ではなく、それについて、一度に一人を招き応対しようという心遣いであるのか、あるいは一人ずつでしかならない理由がまた別にあるのかと、彼らは考えた。
 
「この研究の発足時点で指定された場所とは違う場所への招待状。その時点で不審な訳ですが、これにより何か思惑が裏に潜んでいると自分は仮定しています」
「そうだね。正直僕もそう思ってる。…これ、ルートには来てないの?」
「はい。じじ様の存在を認識していないのか、若しくはじじ様に来られると何か困るのか。それを確認しようと過去の資料をいくつか探りましたが…」
「どう?」
「どちらとも言えませんね。そもそも自分は発足時に関わっていませんから、残っている記録もガバガバですから全貌の解明は不可能ですね」
「あー、うん、いやほんとそれは御免。疲れてたんだよあの当時って。ルートは使えないわロクな部下もいないわてんてこ舞いでさぁ」
「…あまり何も言わないであげますが、自分でも判断材料が足りなければ何もできません」
「まぁ、そうだよねぇ…そうだなぁ。そもそもの話なんだけどさ、アダネア君はこの手紙が【事実】だと思うかい?」
「屍人計画の完成、ですか?」
「そう」
「そうですね。自分としては虚偽であると判断しています。そもそも成功の可能性が0でないのなら、いくら当時のサラさまがピーーーーーだったとしても許可しないでしょう。ですが自分が不明なのはその根拠ですから、その辺りをお聞かせいただければと」
 
サラトナグは柔らかなソファに背を預け、手を緩く組み合わせた。危機とは思えない穏やかな表情、まるで昔話をするかのような声色で、どこから話そうかなぁ、と切り出した。
 
 
「とりあえずこれは言えるけど、成功の可能性は【0】だ。この計画はもとより、【完成させる気なんて無い】計画だった。そもそも不可能なのさ、彼等ではね」
「根拠は?」
「穢れは命にしか寄せられないからだよ。人間に命は扱えない」
 
サラトナグは机上を見渡し一枚の紙を手に取った。それは簡単な要項だけに纏められた、計画始動の締結条項。
 
「…その一、研究場所はリードラ島南部の一部貸与地に限る。その二、使用機材使用技術の報告を十年毎に行う事。その三、五十年毎に研究進捗が見られない場合はその時点で援助を停止する。その四、国は最大限の援助を行う。その五、援助の期間は二百年を目処とする。
 
…これが、一応の締結条項だねぇ。書類上はこう残ってた、よね?」
「ええ。一応それ以外の記述はありません。主な国の援助歴としては…資金、貿易権、咎人の譲渡、海底洞窟第二層までの独自探索権、といったところですか。…まぁ、問題はない内容ですね」
 
サラトナグの手にした紙の隣に置かれていた紙をただ読み上げたアダネア。そしてまたその隣の紙をサラトナグは持ち上げる。
 
「…当時からの国の財政まで調べたの、君」
「ええ。かなり大規模な研究と援助額だったようですね。…ただ、その割に財政の圧迫はほぼ無し、それどころか八年目からは財政は右肩上がり。援助額も減少しています。研究開始と同時に、海底洞窟浄化計画に掛けていた一切の費用が消失していますね。随分と勢いの良い決断だったのでしょう」
「…せいぜい軽率に決めたんだろ、という言葉の悪意を感じるよ」
「自分の本意をきちんと認識していただけているようで安心しました」
 
ゆるりと脚を組み悠々とコーヒーを飲むアダネアの姿にぐぬぬと唸り、不敬にも程があるその言葉を何とか飲み込み装えていない平静を表情に張り付けて、内心こんにゃろと思いながら会話を再開させる。
 
「ま、まぁ?そうさ。その通りだよ。言ってしまえば、海底洞窟浄化計画を全面的に人間に任せる、っていうのがこの計画の始まりだったんだ。だからその分の費用をそっくりそのまま援助に出して、必要な分だけに年々調整して行った、って事だね」
「なんとまぁ不用心な考えでしょうか」
「いやいやいや事情があったんだって。これは書物庫に残してない話だから説明しないとわからないと思うけど、」
「…海底洞窟を作ったのも人間、穢したのも人間。浄化の責任は人間が取るべきだと決まっていた、でしたっけ?」
「え、あ、うん」
「共に迫害対象であった妖怪と鬼には降伏の証として頭領の処刑と生活圏の限定。人間達には富の再配分と管理下での生活を義務付けたという終戦の約定。その中の常に精霊の子を王とし続ける契約に、人間にだけ続いていた文化が風習として存在していましたね。丁度その時期までは。輿入れの際に召使いや側仕えとして十数人以上の随伴者がいます。しかし幾ら召使いとはいえ城仕えになるというのにその素性はあまり明るい者はおらず。宮に上げる事が目的ではない事は明らかですから大抵が奴隷かと思われます。まぁ今の時代完全に身元も未来も問わない奴隷というのはむしろ入手が困難ですから、規定数を満たす生贄を人間が用意するには自分の親族や身内などを切り捨てるしかなかったのでしょうね。そう考えれば血族を絶やしたくない、あるいは愛しの家族まで捨てられないが金もない、そんな痩せ細った豪商共が根本から断とうと動いたのも納得です。ええ、人間が残した穢れを人間が祓うべきという理由での、洞窟の穢れを浄化するための生贄の献上を輿入れ時に同時にしていたのであれば、計画の始動によりこれら一切の風習が途絶えたのもまぁわかります。死のリスクだけが高く得られる浄化量は人間とは変わらない自分たちのような精霊が管理するよりも効率がいいですしね。その政治的国益的な観点で言えb「ちょっと待ってアダネア君」はいなんでしょう偉大なる豊穣の稔児、地母の寵愛を受けし聡明たる明勲精霊サラトナグ様。お聞きしましょう」
「煽り技能最大開放しすぎだよ。いや、君全部知ってるじゃん。何で知ってるの。僕より知ってるの。
っていうか知ってるなら言ってよ!!!知らないだろうから話してあげるよぉ~ってちょっとドヤってた僕が恥ずかしいじゃないか!!」
「何を言うのでしょうか。自分は何も知りませんよ。ただ現存する資料と貴方様が愚痴混りに書き残した、知性の無い虫が這いずり回ったかのような汚らしい文字の日記の内容から察したのみです」
「あああああああ!?もう!!何!?また読んだの僕の日記!!」
「ついでに甘く懐かしい、愛する貴方様が自分への寵愛を惜しまなかった時期の日記もありましたから自分の慰み用にまた何冊か拝借しましたよ。
一体何冊残っているのでしょうね。まだまだ出てくるので自分は新たな一冊を見つける度に嬉しく思います」(スッ…
「うわぁああああ持ち歩かないでよ!!本当に君は僕の事が好きだな!!ありがとう嬉しいよ!!その好意をもっと優しく表現してほしい所だね!」
「死ぬまでのつまらない生涯の間に貴方様の残した約100年間分の愛の日記を探すのが楽しみです。
 
そもそも自分が尋ねたのは【その研究が成功しないであろうという確信を得るに至る根拠】のみですから、勝手に語りだしたのはばば様が自分に対し議論的優位を取りたかっただけですよね。精神年齢が見た目通りおこちゃまでいらっしゃる。そういうところに生意気なガキさがあって可愛らしいですよ」
「くそぅ…くそぅ…!!本当に優秀に育ってくれちゃって…!僕は嬉しいよ!ああうれしいさ!じゃあなんだよなんだよ僕は何を喋ればいいんだよう!もう!」
 
深く腰掛けたソファで年相応以下の子供が駄々をこねるようかの様に足をばたつかせて、カップに残ったコーヒーを思い切り煽った。完全にむくれているようで、部屋に入ってきた瞬間の余裕はもう微塵も感じられない。ただの少年にしか見えない。そんな様子にももう慣れているのか、特に動じるわけでも謝罪をするわけでもなく、アダネアは話を進める。
 
「【精霊的な勘】が自分にはありませんからその辺りの見解と、素直に子供らしい感覚で感じたことを全て教えていただければそこからは自分の領分です。考えうる限りの可能性を、貴方様に」
 
よく見てみれば、机上の手書きと思われる文字はありとあらゆる考察だ。最もサラトナグの近くに順番に並べられた物が先ほどアダネアがつらつらと語った内容とほぼ同意義の事柄であったが、それ以外にもあまりにも膨大な量の情報が、様々な角度で記されている。根拠となりうる資料は全て、彼自身の300数年に渡る様々な記憶の切れ端すらも使用して導き出されたのであろう【最適解】を、サラトナグはたった一つの吐息で認めた。
息をつく事しかできぬほどに整然と提出されていたのだから、何も言う必要はなかった。後はもう、この【最適解】を【事実】まで昇華させるだけの足掛かりをただただ用意することが最も効率的であるのだと。推し量ることのできない脳の中身を考える必要はないのだと、信頼故に言われるがままに語ることを選んだ。
 
「…まぁ…さっきも言ったよね…根拠はただ一点。あの洞窟の穢れ、瘴気っていうのは、命に結びつくものなんだ。
 
僕達精霊のもつ魔力っていうのは…君はほとんど使えないからわからないと思うけど、生命力そのものだよ。この世界は全てが生命によって生み出されたそれぞれの生命。その集合体。それらの流れ。
そして僕たち精霊は、その大きな生命に自らの生命力を以って干渉する権利を与えられている。それは奉仕という形態のみを取る事が望ましいけど、まぁそこら辺はいいや。割と好き勝手できるしね。その干渉する権利っていうのが加護なんだけど、つまり僕らの持つ力の根源は【生命を扱う力】だ。
で、あの瘴気というものは形のない【生命】そのものに形を与えてしまう物質。生命の形質変化という意味では魔法にも近いね。そうやって流れゆくはずの生命を強制的に静止させる。その力が過剰に働くと…大抵は死という結果を呼び寄せる。
 
…瘴気を集めるには生命が必須で、生命を扱えるのは精霊だけ。人間には生命の知覚ができない。どれだけ効率よく浄化ができるかとか考えても机上の空論以上のことは出来ない。
そもそも研究という物も無理だし理論に落とし込むのも無理!だから無理!どうせ無理!精々いっぱい研究なりなんなりすればいい!200年後の期間切れには禁忌を犯した異端研究者としてそれこそ浄化用の生贄に大量収穫!やったー!って、それだけの話だったのさ!謎は解けたかい!」
 
けらっ、と嘲り気味の笑みを浮かべる漆の眼は、まるでうんざりしている様にも見えた。
その感情が人間という生物に向けられているのか、それとも己が宿命と職務に向けられているのかは定かではないのだが、その色は長らく従ってきた緋色の従者にとっては馴染み深い物だった。であるから特に何の機微も起こさない。愛するお方、の身の丈以上に重く伸し掛かる責任などという物に対する憎悪は、もうとうの昔に当然の感情となってしまっている。普段の表情の変化の無さも相まって、眉一つ動かさない。
 
「そうですね、大体は。自分では理解できない感覚ですのでそこは優秀な精霊であることを自負していらっしゃるサラ様を信じるしかありませんからね。信じましょう。
ではもう一つ。この研究の名が屍人計画になったあらましは?当初はなんだか仰々しい浄化うんたらかんたらですけど。どうせこれもその生命どうこうの話でしょう」
「うん、それも君の予想通りだと思う。つまりね、命を浪費する以外の方法で浄化することができない事を悟って、穢れの浄化に人間が使われること、そっちを回避しようとしたのさ!愚かしいよね!!人間の代わりに死ぬためだけの生命!そんなものを造ろうとした!色々と試行錯誤してたみたいだよ?血統とかさ、色々ね…」
「それは許可したんですね」
「人間の理の中の話、だからね。どうだっていいさ。それが元々存在する生命の変化体でしかないなら効率は変わらない訳だし。そういう事をすればするほど期限切れの時の刑罰を重くできる。黙認してやってた違法密輸に関わった船舶すらも締め上げられる。
結果が残せないのが同じなら、より愚かしく足掻いてもらった方が僕らの収穫量は増えるんだよ。単純な話だったろ?」
「自分はあまりばば様方のような化物精霊共の思考に同調できないので返答は出来ませんけど、まぁそういう話なのだと理解しましょう」
「僕が知ってるのは…30年位前…だったよね、最後の確認。
 
人間達は、理論と机と紙面の上では、屍人という存在を創り上げたよ。過去の人間の愚行を拭い去れるほどの圧倒的な浄化効率を備えた新生命。精霊という管理種族に献上するための、人間による生贄。
確かにそんなものができるってんならぜひ欲しいよ、と言いたくなるくらいのものだった。持ち合わせる特性全てが僕達にとって有利なものだった。でもそれを完成させるための理論はまるで存在しない。そもそも彼等には生命を理論にはできない。
 
夢物語な完成予想図の妄想を綴っただけの報告が、僕の知っている最後。後は50年震えて待つだけ。たかが50年程度で【神】になれるってんなら別だけどね!神を宣う愚者は消失し、神に手をかけた者もまた死んだ。神と同一視された最古の御子さえ朽ち果てた。そんなろくでもない結末が約束されてる行為だけどさ。はは」
「……では、特に裏を考えずに答えを出すなら…研究は成功することがないだろうと腹を括り、処刑されるくらいなら返り討ちにしようと発起し、武装を固め、権力と力を持つ明勲精霊を一名ずつこさえた砦に呼び出して殺し、国を混乱に陥れようと考えている、その混乱に乗じての逃避や革命活動への転身、交渉権の獲得、等が目的でしょうか」
「うん、僕もそうじゃないかなって考えてる。
なんにせよ貸与地以外、しかも立ち入り禁止の場所に僕らを呼んだ時点でツミさ。掃討作戦はするよ。記録係として君にもついてきてもらおうと思ってるし。詳しい事は本人たちに聞いて、歴史の一頁に書き納めて書物庫にぽい。それだけだよ」
「…了解しました。か弱く貧弱な自分は化物連中の背に隠れて過ごすとします」
「よく言うよ…僕もできる限り守るし、戦力は十分すぎるくらいいるし…ルノーテスラが多分来るからね、汚れ役もしなくていいと思うよ。あの子そういうの得意だろうから」
「連れていくんですか…」
「多分来るよ、来いとは言ってないけど。丁度いい練習だろ?上に立つことが決まっている子だし。経験は早い内に積ませないとね」
「もう十分積んでそうですけどねあの暴君」
「あー…それは…何とも言えないよあの子に関しては…
まぁ、最近見てたけどかなり才覚溢れる少年だよ。多少の無茶は大目に見るさ。君にはたくさん迷惑をかけるけど、君の愛する僕に免じて許してあげてくれないかな」
「そのつもりがなかったらとうの昔に殺害を試みてますよ。お任せください、この身をボロ布の如く扱うのは慣れてますから。全ては愛する貴方の為だけの命です」
「最高の部下を持てて幸せ者だよ僕は。
それじゃ、僕はラフラト君に後処理用の人員編成を頼んで…帰ってきたら…また予算組み直して…あと地下牢も開けておかないとね…はー、明日か明後日…少なくとも一人目を呼んだ日より早く着くように出発したいから…忙しいなぁ。戦闘は久々だしその準備もしないといけない…」
 
サラトナグはぐいっと背伸びをし、これからの疲労を考える。机の隅に置かれた灰皿にいくつか乗る吸殻に、こちらはこれからも疲れる事になるのだろうと、アダネアのあまり眠っていないと思える良くはない血色を窺った。どれだけの快楽物質や覚醒作用を脳に注いでいたのか。出来る限り早く出たいという本心ではある。打ち合わせは行きがけに済ませればいい。それでも一日街で過ごそうかと話したのは、出かける前に少しくらい眠らせてやったほうがいいかもしれないという考えの元でだ。ただし休めと言っても休まない事もよく知っている。
さてどうしようか課題は山積みだ、それらすべての思いを込めて、やはりただ一度、言葉なく一息を吐き溢す。宮の中らしい華美過ぎずも気品高く綾なされた一室を、まるで無価値だと貶すように眺めながら。ただ虚ろに。黙して語らず。栄枯盛衰の限りを眺める者達の瞳には、確かに虚無として映るのかもしれない。黒い眼が眠たげに細められた。
 
「…ああ、もう一つ確認することがありました」
「なんだい?」
「この、招待状に記載されている位置は、何か存在しますか?」
「しないよ。君も知ってるだろ?リードラ島北部は僕の産まれた家がある。だから一帯を立ち入り禁止にしてる。村もない。その筈だよ。呼ぶからには何かがあるんだろうけど…それは本当に僕にもわからないんだ」
「わかりました。では最悪、じじ様や鳥頭に大規模破壊をさせるという案も不可能ではない、という事ですね」
「…そうだね、最悪、ね。特に大事な物はない。どうしようもない状況がもしも起こったら、それも考えておいて。僕の指揮権から離れた時は君が命じていい。ただ…」
「僕を巻き込んで殺す作戦は立ててもいいけど他の子たちは必ず逃がして、とでも言うのでしょう?分かっていますよ、腹が立ちますけどね」
「…ありがとうね、アダネア。じゃあ僕から一つ付け加えるよ。
僕と君だけが死ぬ作戦なら、立ててもいい」
「…有り難く、確かに。」
 
 
 
 
=========================
 
 
 
 
 
「おい、サラトナグ。ルノーが行くと言い出した」
「ああそう。わかったよ。そうだと思ってたしね」
「…お前、もしや我が息子を貴様の代わり、なんぞにするつもりじゃあるまいな」
「僕や君の代わり程度で終わる器なら、君の息子がその程度だった、だけの話だろ、ルートグラン」
「…そうか」
「…ああそうだ。いい機会だし、一ついい?」
「なんだ」
「あのさ、アレストのことなんだけど。あの子ね、多分僕が死んでしまったりしても30年くらいは生きられると思うんだ。だからその時はさ、いい子だしさ、君に…ムカつくけど懐いてるからさ。最期を看取ってあげて。家族として」
「…」
「これは別に今回に限ったことじゃないよ。これからの事も含めてだ」
「それがお前が私に求める事かね」
「そうだよ」
『…腕無き者よ、それがお前の望む指導者の形であるのなら、私はそう在ろう。お前の望むままに、御心にかけて』
『ああ同志、唯一無二の友として、君に託すのだ。君の持つ子らへの温情の一筋で構わない。その慈しみを彼の者へ』
『…それが、お前の選択ならば。約束しよう、その望みに報いよう、我が友。悔恨なく生きよ。明日を見て逝け。その身を捧げよ、礎に』
「…君って一々古語(精霊語)にしないと約束もできないの?」
「そういうわけでは、ないのだが」
「(君ってちょっと気恥ずかしくなると古語使うよね、っていうのはわかってるけど黙っておいてあげよう)」
「…では、行くか」
「うん。行こうか」