ほうさんのお国柄

企画参加用創作ブログ。絵は描けない。文のみ。お腐れ。色々注意。

『誰か』に向けた物語。

『誰か』に向けた物語。


むかしむかしあるところに、とても可愛らしい女の子がおりました。その女の子はいつもかわいいかわいい笑顔を浮かべていて、ようせいさん達や、リスさんやウサギさん達と、お花の国でまいにち仲良く暮らしておりました。いつの日かその女の子は、お花の国のおひめさまになりました!
 ピンクの花飾りをつけて、バスケットにはいっぱいの『しあわせのお花』を詰めこんで、おはなのドレスをきた、やさしくて、とってもかわいいおひめさま。そのしあわせのお花は、おひめさまのやさしいこころで出来たお花で、渡した人をしあわせにしてあげられる、そんなお花です。とってもすてきなお花のおひめさまの事を、動物さん達や妖精さん達はとってもだいすきです。
そんな平和なお花の国に、ある日、黒いからすさんが飛んできたのでした…。

 

「…さぁ、今夜はここで終り。もうおやすみの時間だよ?」
「えー!いやよ!パパのおはなし、もっと聞きたい!」
「だめだめ。また今度、お話ししてあげるからね。ほら、リスさんとウサギさんが、いっしょに寝ようよ~って、言ってるよ?」
「! …わかったわ!また今度ね、パパ!おひめさまのおはなし、ちゃんときかせてね?」
「勿論だよ。ほら、目を瞑って…」

 

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ねぇ、パパ!からすさんが来て、どうなったの?
こらこら、騒がない騒がない。ちゃんとお話しするよ。
…ある日飛んできた黒いからすさんはケガをしているようで、ふらふら~っとよわよわ~っと飛んでは、お花のお城に飛んできました。
たいへん!助けてあげなきゃ!!
心やさしいお花のおひめさまは、ケガしたからすさんに近よって、大丈夫!?、と、声を掛けました。からすさんはくるしそうな声で、こう言います。
 ぼくたちのすんでいるとりの国に悪い魔法使いがやってきて、みんなからやさしさを取っていっちゃったんだ。そのせいでみんないじわるになっちゃって、ぼくはケガをしちゃったんだよ。
パパ、からすさん、だいじょうぶなの?からすさん、なおる?
勿論さ。だってここには、やさしいお花のおひめさまがいるだろう?お花のおひめさまはからすさんを抱きかかえると、そのからすさんにしあわせのお花を近づけました。
お花?
そう!するとお花とからすさんはきらきらとかがやいて、おひめさまはその眩しさに目をきゅー!っとつむってしまいます!はい、きゅーっ!まぶしーい!
きゅー!!まぶしー!!
ははは。じゃあおひめさまが目を開けると……?
あけると…。
なんと!傷付いていたからすさんは、とってもとっても真っ白できれいな羽の、おおきなとりさんになっているのです!
はくちょうさんみたいな!?
白鳥さん…うん、真っ白な鳥さん。白いからすさんはおひめさまにぺこりとおじぎをすると、こういいます。
 助けてくれてありがとうございますおひめさま。あなたのそのやさしいこころのおかげで、私の傷は見てのとおり、キレイに治りました。 やさしいおひめさま、貴方のそのやさしさでできた幸福のお花なら
パパ!しあわせのお花!
ああ、ああ、そうだったね…
 …コホン。そのしあわせのお花なら、わるい魔法使いにやさしさを取られてしまったもの達を、助けてあげられるかもしれません。 お願いしますおひめさま。旅に出て、傷ついたみんなを助けてはくれませんか?
…おひめさまは、どうしたと思う?
もちろんよ!って、からすさんにぎゅってするの!わたしが、からすさんのおともだちも、たすけてあげるの!
…そういったからすさんに、おひめさまはぎゅーっっと抱き付いて、元気よく、えがおで答えます。 もちろんよ!わたしがみんなを助けるわ!からすさんは、ありがとう優しいおひめさま。といい、海の方につばさを向けました。
 海の向こうにとりの国があります。もしかしたら、悪い魔法使いにやさしさを取られてしまった国は、もっとあるかもしれません。おひめさま…どうかお気をつけて。
そういって、ケガの治った真っ白なからすさんは、大空へと飛び立っていきました!そしておひめさまは、妖精さんや動物さんたちに見送られて、海の向こうへと旅に出るのでした…。

 

「からすさんはどこかにいっちゃったの?」
「そう。からすさんはおひめさまと向こうで会うために先に行ったんだよ」
「そうなのね?おひめさまは、これからぼうけんのたびに出るんでしょう?楽しみ!」
「どんな国があるかな?とりさんの国につくまでに、おひめさまは色んな場所に行くんだよ。
さ、続きはまた今度。今夜はここまで。もう時間だよ。おやすみ、おひめさま。」
「おかしの国とか、りぼんの国とか、かなぁ…えへへ。そうだ!パパにも、ぎゅーっ!おやすみなさい!」
「おっと…ははっ、ありがとう。おやすみ。いい夢を」

 

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今日のおはなしは…聖なる森に、おひめさまがついたところだったかな。
そうよ、パパ…おひめさまが、呼ばれたの…。
…眠たそうだね。じゃあ、お話を始めようね。
…おひめさまを夢の中で呼ぶ声のいうとおり、おひめさまは聖なる森へとたどりつきました。するとそこには、前にお花の国にとんできた、まっしろなからすさんがいるのです。からすさんはふわふわきらきらとすこしだけ輝いています。からすさんは、おひめさまに話しかけてきます。お待ちしておりましたおひめさま。おひめさまを呼んでいた人は、この森の奥にいます。会ってほしいのです。私が案内いたします。輝くからすさんは、おひめさまを案内するようにばさばさと飛びました。
おひめさまがからすさんについて行くと、森の奥には、それはそれはうつくしい泉がありました。おひめさまがその泉をのぞき込むと、とつぜん泉はぱあっと輝き出して、おひめさまは……、びっくりしてしまいます。そしてそこには、とってもとってもきれいで、やさしそうに笑っている、ステキな女の人がいました。
 よく来てくれました、お花の姫。私は女神。あなたがお花の国を出て、お菓子の国や、りぼんの国、フルーツの国、お人形さんの国、それに、からすさんを助けてくれたことは、ずっと、見ていました。よく…一人で頑張ってきましたね。ありがとう。
女神さまは、…おひめさまの手をぎゅっと握ります。
…、ぱぱのて、あったかい…
…たくさんの国やひとを助けてくれたおひめさまだけど、わるい魔法使いだけは、このままでやっつけられるかはわかりません。…でも、大丈夫。私が付いています。それに、あなたが今まで助けた人たち、みんなが、あなたを、応援しているのですから。これを見て?
女神さまがぎゅっと、強く、おひめさまの手を握ると、おひめさまの頭の中に、今までおひめさまが笑顔にしてきた、沢山の人たちの笑顔が映ります。みんな笑顔で、楽しそうで、おひめさまにありがとうって、がんばってって、また戻ってきてって、いっしょに遊ぼうって、言って、います。 それが終わると、やさしく笑った女神さまは、おひめさまに、ピンク色のかわいいお花で出来た、花かんむりを被せます。そして、おひめさまの指には、きれいなきれいな指輪が付いていました。女神さまがぎゅっとおひめさまを抱きしめると、おひめさまのドレスもきらきらと光って、もっともっと、きれいな、本当にステキなドレスに変わったのです。
 私の力を、あなたに渡しました。私はずっと、あなたを見ています。あなたといっしょに、わるい魔法使いと戦います。あなたは一人かもしれないけど、一人じゃありません。わたしも、みんなも、ついています。 大丈夫。みんな、ついています。
…女神さま、おかあさん、みたいね。
…そう、おかあさんみたいに素敵な女性だよ。
…そうして女神さまは、きらきらと輝く星になって、お空に消えていきました。おひめさまには、みんなのやさしさが、しあわせが、いっぱい力になってくれている気がしました。
わるい魔法使いのところまで、もうすこしです。もうすこしで、おひめさまの大変な旅は、終わるのです…。

 

「…今夜は、これで終わりだよ」
「…ぱぱ、わたし、さいごまでききたい…」
「だめなんだ、もう時間なんだよ。眠らないと」
「あした」
「…」
「おねがい、あした、おはなし、して」
「…わかった。わかったよ。明日、最後までお話ししよう。大丈夫。さぁ、いい子だ。ねんねをしよう。身体に障るよ」
「あした…やくそく…」
「ああ約束だ。私の大好きなおひめさま。大丈夫だよ、おやすみ…いい夢をね、見るんだよ…」


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とりの国は、まっくらで…お城も、まっくらです。お花のおひめさまだけが、きらきらと光っていて。やさしさを奪われてしまった鳥たちは、おひめさまがしあわせのお花を渡すと、みるみるうちに、色とりどりの可愛らしい小鳥になったりして、羽ばたいていきます。小鳥さん達が飛んだあとは、まっくらな町も光を取り戻していきます。おひめさまは、お城にたどりつきました。そこには、壁のように大きくて、真っ黒で、おそろしい、わるい魔法つかいが、いるのです。

 

「おひめさまは、おひめさまは…しあわせのお花のブーケを持って…立ち向かって…」

 

…、…おひめさまは、わるいまほうつかいに勝ちました。魔法使いは、おひめさまの、やさしさと、愛情で、きらきらと、ひかって…きえていきます。
そこには、すてきな笑顔の、かっこいい王子様がいて、おひめさまの手を取って、
…あなたの笑顔と、優しさと、愛情と、可愛らしさと、全部、ぜんぶに、救われて、呪われていた僕は、元の姿に戻ることができました。どうかおひめさま。ぼくと結婚してください。僕に、おひめさまを、しあわせにさせてください。
とてもかわいい、すてきなおひめさまは、よろこんで…すてきな王子様と…しあわせに、暮らしましたとさ…

 

「…めでたし、めで…たし……」

 

「………。」

 


もしも私が、白い鴉だったのなら、娘をちゃんと、空まで運んでいけただろうか。

 


娘が望んでいたお伽噺は、こんな終わりでよかったのだろうか。

 


あのやさしい子だったらどうしたのか、目の前にいれば、よくわかったのに。笑顔のかわいい、私の最愛の娘のいた、虚ろな白いベッドに語り掛けるだけでは、何も、浮かばない。

 

ぬいぐるみは、返事をしない。リスも。ウサギも。返事をするのは娘だけだ。
色んな人のくれた花瓶の花は、娘の為に用意した花は、ただきれいなだけだ。

 


娘の為だけに綴ってきた物語は、どうにも、終われない。

 

娘に聞かせてやれなかったのでは、意味がない。

 

娘の笑顔あってこそなのに、それがない。

 

明日はあの子に、訪れない。

 

私には、

 

 

 

 

 

【おしまい】