ほうさんのお国柄

企画参加用創作ブログ。絵は描けない。文のみ。お腐れ。色々注意。

赤と朱の明い春。

 

まーた奴隷系の話だぜ全く。うちに頭おかしくないやつなんていたか?って思うようにしようね。

 

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かぽかぽと、馬の蹄がリズムを奏でる夜でした。それは軽い足取りで淡々と進んでいきますが、それに似合わないボロ馬車の軋む音と、遠足だと喜びそうにもない子供達の静かにすすり泣く声が、ランタン一つもない幌の中で折り重なっていました。


私の側には二人の幼い子供がいて、その二人は私と同じ村から来た子供でした。二人は怯えるように私にしがみついていましたので、私は大丈夫、怖くないわ、とあやしておりました。


私達三人は、一番最初にその馬車に積まれました。馬車は見るからに貧しそうな村をいくつか巡り、そうして何人かの子供たちを荷台に載せ、進んでいたのです。木の葉の枯れた寂しい森です。どこの村も、飢饉に悩まされたのでしょう。載せられる子供たちの痩せ細った身体を見て、同じ境遇が垣間見えました。

 


奉公に出てほしいと両親から告げられたのは、寒く過酷な冬を目前に控えた、秋の頃でした。

 


村の家畜達に流行った疫病と、強烈な日照り・雨不足による凶作。元より裕福ではなく、蓄えもある村ではありませんでしたから、冬は越せないだろうというのは、ある程度の歳の行った者になら察しのついた事だろうと思います。
村人達にも飢饉の波が押し、倒れ伏せる者が増えてきた頃でした。全員は、冬を越せない。春を迎えられない。住む場所を変える事も簡単にはできない中、外から食料やお金を手に入れ、村から脱し、口減らしをするには、働く事の出来る私が外に行くべきだというのは、正しい事だったと思います。例えそれが、身売りのような、奴隷として売られるような、そんな選択であったとしても。長男である弟に両親を託して、私は二度と帰ることはない覚悟をして、何と引き換えに売られたのかは聞かず、貧村を巡りきた奴隷商人の荷馬車に乗り込みました。

 

 


私はまだ、『良い方』な家だったでしょう。本当に、愛なく捨てられた訳ではないのですから。いらない子ではなかったのですから。見限られたのではないのですから。それに、売値のつく健康な若者を、まだ有していたのですから。


死んだ身内をきちんと弔ってやる事も出来ず、骸の髪を売る家の方が、多かったのです。
『アルビダでよかった。死んだ後に、家族に少しでも金を残してやれる。』そう言って亡くなった友も、多くおりましたから。

 

 


何人、載せられたでしょう。私や同じ村の子供達のような普通の子供に、元々奴隷だったと思える、随分と見窄らしい格好をした子供もおりました。アルビダの多く住む地域でしたから、皆アルビダです。アルビダは高く売れるから人攫いには気をつけなさいと、幼い頃から何度も言いつけられてきましたが、一生に何が起きるかは、本当に、わからないものです。

 

 


蹄の音が増えたので、別の馬車が近づいてきている事に気が付きました。騒がしい程に沢山の音で、馬車の速度は遅くなっていきます。
誰かが御者に、同業者かと尋ねておりましたので、きっと、沢山の馬車を用意してきた別の奴隷商人なのだろうとわかりました。その問いを聞いて、御者は嘲り気に答えました。
一足遅かったな、もう搾れるものはない、と。そうしてまた走り出そうとした私達の積まれた馬車を、問い掛けをした声が制止したのです。積まれた私達は怯えておりました。悲しんでおりました。でも、私達に出来ることなど、震えるしかなかったのです。


その声は、それは本当かと問い掛けを続け、いくつかの会話を交わしておりました。途中、何かを渡したのでしょう。御者の声色は打って変わって浮きました。そして、よければ荷を見せてくれないかと、その声の人は側に寄ってきたのです。少々強引な行動に御者は押され、その人は幌の中を覗きに来ました。私達という積荷を、見にきたのです。

 


仮面をつけた、真っ赤なお方。それしかわかりませんでした。
ただ、ただ、春を連れて来たような。そんなおひさまの香りがしました。


その人は、静かに私達を見回しました。そして一度ぱんと手を叩き、御者に振り返りました。ビジネスの話をしよう。よく通る、声でした。

 

 


難しい話はよくわかりません。ですが、その人は私達を、私達が売られた値よりも、私達が更に売られる値よりも高い値で、買い取った様でした。それはとても高い値だったのだと思います。怪しい程の大金に、御者は自分が舐められているのではと掴みかかる程でしたから。暴力ほど明確な決め方もないのだから、それでも構わないが?と返された声はとても余裕に満ちていて、貴殿のような三流商人とは比べないでくれたまえと突っぱねた様子は、この人も奴隷商人であるとわかっているはずなのに、何故か、高貴な方なのではないかと錯覚してしまいそうな程の何かがございました。

 


私達を買ったその方は、私達を見渡して言いました。家に帰りたいかね、と。大声で泣いては怒鳴られてきた子達の目が潤みました。遠慮しなくてもいいと言われて、小さな声で「帰りたい」と一つ溢れると、ぽつぽつと同じ声が上がり、皆が泣き出しました。その人は泣き出した子供達を順に頭を撫でて抱きしめて回りました。
帰りたいと言わなかった子にも、側により、大丈夫だと。私の側にもきて、暖かな手で、私の手を握り、君は皆の良い姉なのだな、と。そう微笑んで下さいました。


馬車から降りると、フードを被った方が何人かいらっしゃって、護衛であったりお付きであったりなのだと、怖がる必要はないと説明してくださいました。私達は連れられた村毎にいくつかの馬車に分かれて乗る事になりました。私達は、その仮面のお方と同じ馬車に乗りました。


馬車の中には様々な食糧が沢山積まれていて、あたたかい毛布も食事もありました。その中から甘い香りのする菓子を取り出して、祖国の菓子だと差し出しました。子供達は喜んで食べましたが、私は悩みました。
このお方は悪い方ではないと、私は思ったのです。信じていたのです。でも、知らない人から食べ物を貰ってはいけない、気を許してはいけない。幼い頃からの教育という言いつけが、私だけは絆されてはいけないのでは、と思わせたのです。
菓子を持ちながら逡巡する私に、仮面のお方は咎める事はなく、むしろ、君は強い女性なのだな、と褒めて、私の手の中にあった菓子を二つに割り、その片方をご自身の口元に運ばれました。それはそれはとても喜ばしそうに美味しいと言って、無理せずとも良いと私の頭を撫でてくださいました。そして、後で道案内をお願いしたいと言い残し、御者台へと移りました。


とても、美味しいお菓子でした。よく覚えております。食事も、戴きました。満腹という感情をいつ振りに抱いたかと思える程に食べさせて戴き、他の馬車に乗った子供達も皆食事を振舞って貰えたようで、笑顔を浮かべておりました。


そして、馬車は私達が辿った道をそのままに、村へと向かったのです。

 

 


最初の村、つまり最後の子が積まれた村に着く頃には、私達はそのお方といくつかのお話をして、彼の来た目的を知りました。
彼は、奴隷商人であるという事を否定しませんでした。ですが彼の住む国では、国以外に雇われる労働者の殆どが奴隷という名称であるという事。雇用主が絶対などという環境は許されていない事。そして、今回は奴隷を仕入れに来たのではなく、繁忙期である冬の働き手を借りにきただけ、という事でした。


彼は積んできた食糧と共に、やってきた国の事を沢山話してくださいました。
年中快適であること。色とりどりの花が咲き乱れていること。実り豊かであること。国を愛し誇っていること。冬を越す事の難しい村から食糧と引き換えに働き手を借り、春にまた帰す。そうすれば皆が助かるだろうと、嬉しそうに語ってくださいました。
子供達は見たことのない爛漫な春に心を躍らせて、彼の話を大層楽しそうに聞き入っておりました。私も、その一人。少し来るのが遅くなり、怖い目に遭わせてしまって申し訳ないと謝罪をする姿は、顔は仮面で見えずとも、奴隷商人というイメージを崩すには十分すぎるほどに、よいお方でした。

 


彼は訝しげな村民達に、自身の事を【ノステラッド卿】と名乗りました。そして食糧とその村で載せられた者を連れて、村長と思わしき方と話し合いに行きました。その間の私達は護衛という方々と過ごす事になりましたが、皆様とてもお優しい方でございました。私が織物作りが得意だというと口々にお褒めの言葉を下さり、ノステラッド卿もお喜びになるだろうと、歓迎をして下さったのです。私だけではありませんでした。全ての子供達に、何度だって温かい言葉を。それは本当に夢ような時間。疲労と空腹感、恐怖や絶望に染まっていた村では到底流れる事のなかった穏やかな時間。それを切り裂いたのは、戻ってきたノステラッド卿に抱えられていた、子供の泣き声でした。


戻ってきたのは、馬車に載せられていた子も、載せられていなかった子も。戻っていない子も。ノステラッド卿はその子達と同じ馬車に乗り込み、また次の村へと私達は出立しました。


次の村に着く頃には、その子達は大層ノステラッド卿に懐いておりました。そして同じ事を繰り返していきます。私は、私以外の子達が眠りについている間に、護衛のお方に聞きました。何が起きているのでしょう、と。


不信を露わにしたつもりはありません。疑いを問い詰めたかったわけでもございません。ただ確信ができなかった事があっただけ。私の表情からそれを汲んでくださったのか、貴女は聡い子なのですねと、語ってくださいました。それは私の想像通りのことで、とてもとても酷な、真実。

 


最後の村に着くと、ノステラッド卿は私と二人の子供を連れて、馬車を降りました。相変わらずの仮面の奥の瞳はきらきらと輝いていて、優しくて。生まれ育った場所とよく知る村長の前に出た時も、何故でしょうか。既に私は村の子ではなくて、卿の子なのではないかと感じてしまいました。だって卿は、私達を、必ず護ろう、と。そう仰ったのですから。

 


村長は決して歓迎はしておりませんでした。戻ってきた私達と目を合わせてくださいませんでした。卿は村の不作と疫病に対する辞を述べて、そして、信用できない他所者に長居されても不快だろうから、と世間話もそこそこに仕事の話をしだしました。内容は、私達の聞いていたことと同じです。働き手を借りたい。春には返す。見返りは食糧。
だが、と付け加えられたのは、貴方方は私を信用できないだろうから、買取相応の対価を此方はお払いする。帰ってこないと思った場合での見返りを、貴方方もこの子達も、私に望む権利がある。そんな言葉でした。


何にせよ、貴方方があの奴隷商人たちから渡された分の端金と引き換えに、この子達はお返ししよう。自由の身だ。改めて話し合ってほしい。人手がほしいだけだから人材は問わない。しかしあくまでもしたいのは、信用と信頼の上に構築されたビジネス。私は正当な対価を払う。持つ以上の物は払えない。連れて行ける人数は限られる。そう語って、卿は似合わない質素な椅子に優雅に腰掛けたまま、足を組み、村長や私達の返事を待つ姿勢になりました。ご両親とお話しするかお連れするか、帰りなさい。そう言って、優しく私達の頭を撫でてハグをして、送り出しました。村長も私達を連れて席を外すといい、そして、卿の存在を村人達に告げました。私達の両親にも告げました。それからの光景は、あまり覚えていたくはないものでした。

 


子を売る親、それは当たり前。出来る限り高く、でも食糧との交換をしてもらえる程度には安く。怪我をした親を売る息子、厄介払いの為に老人を捨て売ろうとする大人、赤児を攫ってでも売る子供。貧困とは、貧しさというのは、ここまでも必死の形相に人を堕とすのだと、私達は価値を付けられながら、呆然と眺めるしかなくて。
確かに昔から裕福な村ではなかったけれど、ここまでではなくて、もっともっと優しかった筈で…厳しくも慎ましく、穏やかに生きていた筈でした。変わってしまった事には気付いていた。覚悟はしていました。でもそれをまじまじと見つめた事はなかった。諦めと理解ばかりを早めて、見ずにいた、荒んだ真実が、そこには、ありました。


覚悟をしていた私でさえも、ぎゅうと締め付けられ苦しみを覚えるというのに、この子達は、どうでしょう。売れるのなら売ろう、と売られてる事になってしまった者達はどう思うのでしょう。帰ってこないということを目の前にして、売られる事は。捨てられる事は。それはとても、つらくて、かなしくて。そんな中で、ただ一人、優雅に誠実に、真摯に対話に応じている彼が、卿が、この空間での唯一の正しさ、そんなような気さえしてしまって。そう感じてしまった自分を奮い立たせるように涙をのんで、自ら両親に別れを告げて、皆に言いました。


大丈夫よ、春には帰って来れるんだもの。ねぇ。きっと伝わったのでしょう。彼は、私と視線を合わせて、蒼い瞳を輝かせました。勿論だとも、繋がる空に誓おう。そう返してくださいました。

 


最初にこの村から出たのは私を含め三人だけの筈でしたが、最終的に馬車に乗った者の数は更に増えていました。沢山の食糧の積まれていた馬車には代わりに沢山のアルビダの若者が乗り、そして、何台もの馬車を積める見たこともない巨大な船に私達は連れられて、生まれ故郷を後にしたのでございました。

 

 


ノステラッド卿は甲板に私達を集めて、船での規則を話しました。他愛もないものでした。食事には全員揃う事。食事の前には祈りを捧げる事。体調を崩したらすぐに言うこと。皆、家族であること。卿は自由時間を私達に与え、それぞれとよく語らって下さいました。全員の名前をすぐに覚えて、いつだって名前で呼んでくださって、好物も、特技も、思い出までも全部覚えて、本当に家族のように接して下さいました。
そして、長い船旅を終えた頃。ここでは君達の父親代わりになる。パパとお呼びなさい!仮面を外した卿の輝かしい笑顔に、照れ臭そうに幾人かがパパと呼び始め、私達は春までの家族になったのでした。

 


時折懐郷病に罹る者もおりましたが、それはそれは忙しなく穏やかな、平和な日々でした。彩られた秋を初めて知りました。花々の綻ぶ春に謳歌しました。冬の間中、皆で羊毛と戦って、故郷よりも幾分も早い春には毛刈りまで手伝いました。毎日朝と晩の食事は『家族』全員で集まって、昼は各々の仕事場で。仕事以外にも色々な遊びを教わった子も居たようで、毎日楽しそうに出掛けて行きました。
それはそれは楽しい日々でございました。自然と、厳しい故郷の事が記憶から薄れていく程に。何一つ不自由のない暮らし。私達は奴隷であったというのに、環境が全くそう思わせません。働きの対価を既に支払われた身だというのに、お小遣いと称した給金が出ます。自分の好きなものを買う事ができる、というのは、なんと心踊る時間だったでしょうか。パパからプレゼントを贈られた事もあります。私は長い髪を結うための髪留めでした。すぐに切られると思っていた唯一の財産である髪は、よく梳かれ、褒められ、大事にされました。パパが、私の為に選んでくれた、綺麗な髪留め。パパの事を好きになってしまいそうな、素敵なプレゼント。パパの為に、と自分から髪を切り差し出す子もおりましたが、パパはそんな子には涙を流しながら感謝の言葉を言うのです。そしてその髪を少し取っておいて、その髪で染めた可愛らしい服をプレゼントしたりしていました。やさしいパパ、やさしい場所。みんなが此処を、好きになっておりました。

 


穏やかな春の陽気が眩しい朝でした。唐突に、三日後に出航しようとパパから通達がありました。それはつまり、故郷に帰る、という事なのでしたが、私達の中から思い切りの良い歓声が上がる事はなく、戸惑いの気配が漂いました。私達は無意識のうちに、もう戻れないのだと思っていたのです。確かに卿は、戻れないものと思ってと言いましたが、それは信用できないだろうという村への言葉であって、私達には春に帰れると仰っていました。卿は決して嘘をついてはいませんでした。卿は、パパは、優しいお方。それを皆がよく知ってしまったからこそ、素直に喜べないのです。言うならば私達は、戻れないものだと安心していたのです。

 


最初に出された声は、戻りたくないです、という言葉でした。元より奴隷だったという子の、震える声。笑顔はなく、泣く事もできず、ただ怯えるだけだったその子は、此処で暮らすうちによく笑うようになり、そして涙を流しながら戻りたくないと訴えておりました。続いたのは、村や家族に余り良い思い出のない子達。ずっと此処にいたいと呟くように落として、すすり泣きが広がりました。黙ってしまったのは、帰りたい子と、帰りたくないわけではない子。帰りたくないと話す子達のこれまでを知るからこそ軽々しく帰りたいとは言い出せず、口を噤みました。そんな子達の事も察したのか、元々そのつもりだったのか。パパは至っていつも通りに言いました。村人達と交わした約束があるから、必ず戻る。でも、帰るかどうかは皆が決めればいい。夏だけ戻ってまた冬に船に来る事も歓迎する。ずっと此処にいたいのなら、それも歓迎しよう。出航までの三日と、船に揺られる旅の間、私達は考え、悩み、相談したり思い出したりしながら、遅い春を迎えたであろう故郷へと、帰郷したのです。

 


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「おやリウヘン!寝付けないのかな!」
「あら、パパ!起きていらっしゃったのですか?」
「はっはー!少々整備が長引いてしまったのだ!身体を冷やさないよう!まだ晩は冷える!羽織りたまえ!」
「パパ…!暖こうございますわ…!」
「ふふ、何か考え事をしている顔だ!気が済むまで耽るといい。大いなる空が見守ってくださる!」
「…パパは、覚えていらっしゃいますでしょうか。わたくし、パパの家族になった時の事を思い出していたのでございますわ」
「はっはー!勿論!覚えているとも!ワタシはとても驚いたのだから!産まれてこの方、疑われるという経験が少なかったものであるからな!まさかあれ程まで不審がられていたとは!はーっはっは!」
「もう…ご容赦くださいませ…お恥ずかしゅうございますわ…。折角パパが下さった髪留めを暫くつけられなかった事、今でも寂しいのですもの…」
「まさかワタシが廃村に子供達を置き去りにするか、それとも何処かへ売り払ってしまうとでも思ったのかね!はっはー!」
「だってあの頃のパパはお名前を教えて下さいませんでしたし、とても冷酷な方だと思ってしまっていたのですもの!」
「はっはー!全く、ワタシが未熟であったという事だな!正直に向き合いたかっただけだったのだが、君を不安にさせてしまった。今でも、課題として反省している」
「そんな事ありませんわパパ!私が疑いすぎなだけですもの…」
「ワタシに疑わせてしまうだけの余地があったということだ!それにワタシは!君にはいつだって助けられているのだからなリウヘン!」
「パパ…!!とても嬉しいお言葉ですわ!わたくし、これからもパパと家族のため、尽力させていただきますの!」

 

 


あの時、帰った故郷は、殆どが滅びていました。冬を越せなかったのです。確かな理由はわかりません。家畜達に蔓延していた疫病が、村人達へも襲いかかったのでしょう。私達と引き換えに渡された食糧だけでは足りなかったのでしょう。飢えた森の獣に襲われたのでしょう。いくつも考えられましたが、少なくともそんな事を考えていられる子はおらず、帰りたくないと言っていた子達も喜ぶ事が出来るわけもなく、パパは優しく無言で涙を流す私達を抱きしめて、静かな死んだ村を虚しく泣きながら巡り、また船へと戻ってきたのです。


港に停泊したままのその晩、甲板にいらっしゃったパパに私は、目の前で自分の長く伸びた髪を切り、差し出しました。私に出せる対価は、これだけしかなかったですから。私自身しかなかった。私を対価に、皆を、ちゃんと引き取ってくれませんかとお願いをしたのでございます。
このお方を信じたかった。でも、私だけは疑わなければいけないと思っていました。もしかしたらこのお方は、村が滅んでしまう事をわかっていたのでは?こうやって、身寄りのない子を態と作って都合よく利用しようとしていたのでは?だってこれだけ豊かなお方なんですもの、もっと、【どうにか出来た】のでは?その裏に何か悪意があるのではないかと、私は疑い続けたのです。それでも、頼る事が出来るのもこのお方だけで、信じたいと思えるのも、このお方だった。私は皆の姉だった。だから、私に出来る事なら何でもしますから、せめてあの子達を、苦しまないように助けてくださいませんかと、懇願したので御座います。

 


パパは私に上着を羽織らせて、涙を流して抱きしめてくださいました。思い悩ませてしまってすまないと謝ってくださいました。こんなにもよくしていただいて、それでも疑い続けて信じる事の出来なかった私を、責任感のある子だと、頼れる姉だと、聡明な女性だと、強い子だと、言ってくださいました。許してくださいました。パパは私達を引き取る事を約束してくださり、私達は新たな国を居場所にする事となりました。正式な国民となった私達の父となって、家族となって、名前を教えてくださいました。そして私達に、名前をくださいました。


私達は、家族になりました。

 


「リウヘン!今もまだ、ワタシを疑っているかね!」
「ふふっ、勿論ですわパパ!パパは完璧ではない。何処かで間違えるかもしれない。失敗するかもしれない。わたくしだけは疑わないと、兄弟達とパパを、家族を、守れませんもの!」
「はっはー!全く、君はいつだって聡明だ!パパは誇らしい!頼りにしているぞ、リウヘン!」
「ふふっ、ありがとうございますわ!パパはいつだって素敵でカッコいい!大好きなパパ!わたくしに出来る事でしたら、なんだって、ですわ!」

 

 

 


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ヘン・リウ
懐疑の呪いを持つアルビダの娘。自身に流れる血の中に【疑い続ける自分】がいる。何事も信用できない疑ってしまう自分が嫌いで、何事も信じてしまいたい自分の事も嫌っていた。二重人格というよりは二重思考(?)。あくまでも人格は同じなのだが、全く異なる思想の自分が常に存在している。
誰かを疑う事で悪く思ってしまう事や、信じられずに悩む、という事が辛く、早めに諦めたりさっさと決断してしまう事が多かった。


疑う事が常に悪い方向へ考えるだけではないという事や、疑いすらも肯定された事により、自分を次第に許せるようになっていく。
ノステラッド卿ことパパ、ことレイゲンドールと出会い、過ごしていく中で、レイゲンドールの細々とした【悪意のない残酷さ】によく気がつき、信頼関係の上で指摘するようになる。
未来のない子供達への悪意のない洗脳が行われる日常において、一人だけ完全に洗脳とは無縁の位置にいながら、レイゲンドールの事を信用して補佐している皆の姉。【パパは完璧】という思考麻痺で不幸や不安を取り除く事を決して正解とは思っていないが、笑顔になる子供が増えるのならそれがいいのだと、パパに寄り添う事を決めた。
殆どの子供達がパパに恋愛か親愛かよくわからない愛情を向ける中、パパと娘、以上を望まない。というか疑うという思考上望む事があまりない。加えて、レイゲンドールの頭がおかしい、という事も十分に理解しているために惚れられないというのも大きい。
尚現在は非常にポジティブな思考に統合されてきており、ポジティブに疑う事が多い。ことパパに対しては滅茶苦茶ポジティブに疑う。そしてそれが大体合っているので、似て来ている。


船一番の古株。ずっと降ろされていない。元々はヘンが苗字でリウが名前。ルウリィド国での名前という事で統一されて、ルウリィド国では苗字が後に来る為に、リウヘン、という名前になっている。

 

 

 


ノステラッド卿
レイゲンドールが奴隷商人として取引を行なっている時の姿と名前。赤い鳥の羽で飾られた仮面をつけている。大きな羽のついた帽子を被っている時もある。何にせよ赤い。
基本的に外ではルウリィド国の商人という事は伏せて、好色な貴族、金持ち、傲慢、などなどの演技をしている。演技じゃない部分もある。
ちなみに名前は『春と有る者』位の意味の言葉。リウヘンが思い出していたこのエピソードは、一番最初の取引だった。また春に来る、という取引をする予定だったのでこの名前に。今では最初っから買取りの方が多いため、あまり意味は通らないが、外ではこういった仮の名前を使っている。


割とシビアというか、仕事に関してはビジネスである、という事を重視する傾向にある。慈善事業を行なっている気ではない。十分慈善事業寄りだが。この時も【村を助ける】事が目的では無かった。その部分をリウヘンに疑われたが、その辺でこの人頭はおかしいんだなぁって思われた。あくまでも嘆きや悲しみが少しでも減ればいいと思っているだけで、滅びを悪いものとは思っていない為である。滅びという一つの運命にまで手出しをする気はない。そういう男である。別に作為的なものもないのだが。好意や誠意が他者を傷つけるが、あんたのせいだ!とも言い難いタイプ。未だに勉強中である。

 

 

愛だ愛だの間のあいだ。

おじじとマザーがすこし仲いいと嬉しいなって思って書いたんだけどコレ知ってるか11月22日のいい夫婦の日辺りに書き出したんだぜ…。
今までとちょっと書き方変えたんだけどやっぱりそういうのって一気に書き切らないとノリが変わっちゃって苦労するね。ってことで中途半端でしたけど、まぁいいかって。多分戻します…。
おじじとマザーは健全なCPだぞ。ただお互い変な生活送ってるからな。仕方ないな。そらルノ様もこじれるよ性格。
 
オチはいつも通りないぞ。

バレンタインデーですね。

バレンタインだなぁ…と思って、ゆるいゆるゆるをゆるく詰めました。甘くはないです
。ネタ寄り。お馴染みメンツですね。
書いたことが少ない子達もちょっと入れたかったけど、諦めました。来年度に期待しましょう。未来の自分に。
 

静かに終わるこの世の話【さわり】

企画関係ない一次創作?のさわりの部分を書いていたので、折角なのでここにも。のんびり続きを書くつもり。いつか全部かけたらまとめたいと思っているのが今年の目標なので、ほどほどにやります。

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秋茜。少女の視界に広がる紅葉は、随分と雑然としたものだった。全くの人の手の関わり入っていない、在るがままの眩い光景。少女は、さく、さく、と。落葉を踏み鳴らし、一歩一歩を焦る様子も何もなく、道のない木々の間をふらりふらりと歩いて行くのだ。何か確信めいた諦めを感じさせる足取りで。帰り道など覚える必要はないと。思うままに、迷いもせず、ただただ歩く。緋色の美しい森を。

街を歩くだけで足を痛めるような靴。うら若き乙女たちの購買意欲を煽る雑誌の表紙を飾るような服。やりきれない明るさに染められた髪。庇うために覆った化粧。少女はどこにでもいそうな、少女だ。だからこそ、人知れぬ外れにある森の、それはそれは小さな社の、そのまた奥へ進んでいくことが、随分と異常であったのだ。

けれど少女を止める者はいない。少女に問う者などいない。少女に気が付く者さえいない。少女は独り。「はいってはいけないよ」と昔祖母が言い残した寂れた社の奥へと。


さくさく、さく、さく。さら、から。吹く風が木の葉を揺らし、少女の道に交わっていく。さく、さく、さら、から、さく、さく。煩わしい喧騒など、遠く遠くに消え去るのだ。ざぁざぁ、応えるように風が木々を揺らす。少女の傷んだ髪を揺らす。変わらない森の景色が、少女を囲んだ。どこを見ても何も変わらない森。来た道も行く道も。何もわからない。少女はようやく立ち止まり、高価なだけで何も容れられない鞄を抱えて、光の射す木々の切れ間に座り込んだ。


少女の歩みは終わったのだ。吹く風が音を連れてくる。ざぁざぁ、からから。さく、さく。…さく、さく?少女は音の聞こえる方向へ視線を向けた。さく、さく。足音はやってくる。さくさく。がさ、がさ。道なき道からやってくる、風の連れてきた足音。どこかの茂みをがさりと揺らして立ち止まる。きっとそこに何かがいるのだ。けれど少女にはわからない。街と人の群れの中で生きてきた少女には何もわからない。

「…誰か、いるの?」

姿など見えない何かに問いかける。いるのは、そこか、それともあそこか、どこか。わからない故のまとまりのない声で。


「珍しいな、迷子かい」

茂みが、そう問いかけた。男の声だろうと、少女は思う。しかしながら、実に不思議な声だと。声を聞いて尚、どこにいるかが分からないのだ。男の声は確りと耳に、頭に、届いているはずなのに。そうしわがれた声でもない。若い男の声、ざらつきのない、綺麗な澄んだ声だ。

「迷子なら、今すぐに立ち上がりたまえ。君の右手の方へ進むといい。まだ、日が落ち切る前に帰れるさ」

不思議な声は、少女に帰路を示す。少女が今までに過ごしてきた街への道を。しかし、少女は動かない。その声に何か思う事もなかった。不思議だなと思う。しかし、何も。応じようなどとも、従おうなどとも。ただ鞄を抱えて座り込んでいる少女に、男の声は不審げに尋ねる。


「…怪我でも、した?それとも、帰る気もないのかい」

少女にとって、何一つとして否定する事などない。痛んだ足を抱えて座る事で、その問いに答えて見せた。


「そんな薄っぺらな格好でこんな森に遅くまでいたら、どうなるかわからないよ。この時期は、よく冷える」

男の声はそこから立ち去る気は無いようで、少女に促し続ける。


立ち去る気が起きないのは、少女もまた同じだった。この声の男が、善人であるのか、悪人であるのか。何故姿を見せず、何故ここにいるのか。そんな事も、もう、自分には関係がないのだろうと。少女はぴゅうと吹く冷や風にぶるりと身を震わせた。


暫し、黙った。少女も。声も。風も。森も。ただ陽は斜めに陰り、空気は冷える。さく、さく。沈黙を破ったのは、枯葉を鳴らす足音。小さな足音。さくさくさく。声の辺り、だったはずの場所から、その足音は少女の近くへ。暗がりを動いているのだろうその姿は、少女には確認できなかったが。少女には見えない、少女の近くで。背後で。声は語りかけるのだ。


「そういうの。困るんだよなぁ」
呆れたと言うには感傷的な声色。憐れむというには面倒臭そうな声色。その近い声に少女は一度、びくりと身体を震わせた。近くに居る、という感覚が、少女を随分と臆病にさせる。


「ここなら、誰にも迷惑を掛けないとでも思ったかい?十分迷惑だよ。君の世で起きた事だろう。君の世で処理をしたまえ」
男の声は、少女を促すのではなく、追い返す意図をはっきりと持った言葉を投げる。少女はぎゅっと、自分の身体ごと抱えるように、鞄を潰して、拳も強く握り込んだ。耐えるように、堪えるように、絶える、ように、


「貴方、なんなの」
喉が拒否しているような息苦しい絞りだした声が、少女の心からどろりと零れる。


「あなたに、何がわかるの」
いままでに一度もいう事のなかった言葉が、少女の口から流れ出す。不満のような、文句のような、叫びのような、嘆きのような。投げかけられる姿のない男の声に返すには、不適切な言葉だったかもしれない。それでも少女が吐き出せた言葉はそれだけだった。たったそれだけで、少女の心臓はばくばくと苦しい程に脈打ち、視界は歪み、息はきゅうと苦しくなるのだ。体中の筋肉が強張って、ちぢこまって、視線は落ちる。乾いた風に攫われる木の葉が数枚見えた。


「…、…そうか」
声は、答えた。ほんのすこし、明るい声で。
「その言葉を言えるのならば、まだ君はここに来るべきじゃない」
その声は、少女には随分と優しい声に聞こえた。安らぎさえ感じる言葉だった。込め過ぎた力が抜けていく。
「今日はもう、お帰りよ。来たいならまたこればいいさ。…話し相手に位になら、なるよ。時間は、いくらでもあるしね」
声はまた、がさりと茂みを揺らして居場所を変える。少女の右手の方から、こっち、と呼ぶ声がした。少女は一度、瞼をこすって立ち上がる。土を払い落として、陽の沈みだした空を見上げて、冷たい空気を吸って。そして声の方へ追いかける。家に、帰ろうと。


「ねぇ。貴方は一体、なんなの?」
「さぁてねぇ。なんだろうねぇ」
さくさくさく、と、同じような速度で歩くにしては足音の多い歩みが、少女を先導する。


「貴方は、明日もここにいるの?」
「何もなければ、ずっといるさ。」
先を歩いている事は確かなのだ。しかし、精々少女の腰程度までの高さしかない茂みを渡り歩いている声の姿は、見えない。


「貴方の、名前は?なんて呼べばいい?」
「…無いよ。呼称なら、そうだな。…浮世、とでも呼べばいいんじゃないかな」
そうして歩みは止まった。暗む空の仄かな光ながら少女の目にちらりと見えたのは、足下近くの白い一房。そして、空の色だけが違う、少女が【迷い込んだ】小さな社。少女は何事もなく森から還った。脚に確かな疲労感はあれど、服が土や草に汚れていても、それでも少女は、また、少女の過ごしてきた世に戻ってきた。空にはない暗雲が少女の心にまた掛かろうとする。振り払うように少女は首を振り、姿のない声を呼んだ。


「浮世、さん?」
「…何かな」
浮世と名乗った声は、すぐ近くの低木の茂みの中にいるらしい。少女は笑みを溢す。
「なんで、浮世さんなの?」
「なんとなくかな」
声は立ち去ろうとはせず、少女の背中を見送るつもりなようで、少女をきっと見上げている。それは感じられた。


「浮世さん。私、もう少し考えてみる」
「ああ、そうしたまえ。人間には知性も言葉もあるんだからね」
「浮世さんにもあるもんね」
「さて。どうだか」
こんなに浮世離れした、まるで夢の中のような体験をしたというのに、当の存在は自らを浮世などという。わくわく、どきどき。そんな音で表せる気持ちを抱いたのなんて、いつ振りだろうかと。奇異奇怪を目前にして尚、少女の心は久方振りに踊り出す。漸く、鼓動を始めたのだと言えるほどに。


「明日も、来てもいい?」
「好きにすればいいさ。…でも、来るのならもう少し歩きやすい靴で来るんだね」
「…うん!そうする!またね、浮世さん」


少女は森を背にし、ゆっくりと遠ざかっていく。背伸びをさせる痛む靴を、明日は脱いでしまおうと考えながら。ひゅうと吹く冷たい風に、もっと暖かい服を着ようと思いながら。整備されていない土の道を歩き、そして、背後に微かに聞こえた音に振り返る。
茂みから小さく、黒い何かが顔を出している。黒い目と、ぴんと立った二つの耳。 けむくじゃらの顔。目が合うと、すぐに【彼】は踵を返し、森の暗闇に溶けていく。


「…狐さんだったんだね、浮世さん」
尾先の白い毛が点のように浮かび上がって、闇に消えて、化かされていたかのような時間は終わる。空の星を数えながら、少女もまた、去っていった。