番外:本編5.5 アレスとサラ BL注意
本編5の後、帰り道道中
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からころ、からころ。馬の蹄が地面を蹴る音が2つ。穏やかな日和の中、栗毛の馬と黒毛の馬が歩いていく。
前を歩く黒毛の馬に乗る青年は、時折後ろを向き、もう一頭の歩みを気にする。黒毛を操る青年ほど手慣れてはいないが、栗毛を操る青年も、危なげなく馬を操っていた。
「あんた、馬乗れたんだな」
「まぁねぇ。君ほどではないけど、年の功があるから」
栗毛は足を早め、前を歩く黒毛と並ぶ。黒毛は歩みのペースを落とし、栗毛に寄せた。
「...俺はそいつが慣れるまでに結構かかったんだがな。なんであんたが乗るとそんなに大人しいんだか」
「アレスト、君は女性への接し方が未熟なんだよ。女性はいつでも誰でもお姫様でお嬢様なのさ。
ね、君のご主人はぶっきらぼうだよねぇ」
栗毛の馬に乗る精霊の青年サラトナグが、軽く【彼女】の首を撫でる。穏やかな声色で彼女は応えた。
彼女の主人である茶髪の人間の青年アレストは自らが乗る黒毛を見やり、お前は単純でわかりやすいのにな、とぼやく。黒毛は高く鳴き、二、三歩駆けた
「サラ、こいつ走りてぇみたいだから、ちょっと行ってくる。次の村、先に行っててくれ」
「はいはい。その子に無理をさせるんじゃないよ」
「当たり前だろ。俺はあんたに無茶は言っても馬には言わねぇ」
「信頼されてると受け取るかねぇ。行っておいで」
アレストはサラトナグの乗る栗毛を撫で、そして自らが持つ黒毛の馬の手綱を軽く叩かせる。
毛並みの良い艶やかな尾を靡かせ、黒毛は街道を外れて草原へ駆けていった。
その姿を、立ち止まって見送る一人と一頭。
栗毛の馬は乗り手の青年に甘えるように振り返った。
それを受けてサラトナグは甘やかすように優しく撫でる。彼女が自然と歩き出すまで、よく手入れされた鬣を梳き続けた
「ふふ、妬いているのかい?
大丈夫、君の主人は君の事をとても大事に思っているよ。大事にし過ぎている位さ」
低く、小さな、短い返事が返される。
「あの子は普段君に荷を引いてもらっている事を感謝してるんだよ。だから今日は君に休んで欲しかった。わかるだろう?あの子はいつだって君に優しい」
僅かに高く強気な声色で応える。
「そうだね、確かに彼は君を見くびっている。君は歩く姿は品があり、駆ける姿は可愛らしい。僕は知っているよ。
ご主人は君の事をもっとよく知るべきだね」
大きく嘶く。栗毛の彼女は楽しそうに、嬉しそうに、小気味良く拍子をとる。落ち着かない様子だ。
「ははは、女性をほんの少しだけはしたなくさせてあげられるのがいい男だっていうのにね。全く、ご主人によく言っておくよ。
ごめんよ、君のご主人程上手くリードしてあげられないけど、気が済むまで付き合う事は出来る。
さぁレディ、どこまで行きたい?」
透き通った女性の歓喜の声が、草原に響いた
日が完全に落ち、夕暮れはとうの昔。
星が煌めき月は時折雲に隠れる。
村の外れの馬屋に先に到着していたのは黒毛を駆けたアレスト。それから数分後、栗毛とサラトナグがゆっくりとした歩みでやってきた
「...遅かったな。どっかで転けたかと心配したぜ。俺の馬を傷つけたらどうしてやろうかと思った」
「おやおや。僕はともかく、賢い彼女がそんな事をするとでもお思いかな?ねぇ?」
栗毛の馬は主人であるアレストの頭を弱く噛む。何度か痛い痛いと言わせると、満足したのか自然に離れた。
サラトナグが蔵から降り、頭を撫でると擦り寄ってくる。鼻先と鼻先をこつりと合わせ挨拶を交わし、黒毛の待つ馬屋へ入っていった。
「...なんであんたには懐くんだ?俺にはすぐに噛み付くし気分屋な癖に...悔しい」
「君は彼女を相棒扱いし過ぎだね。
彼女は麗しくお茶目なレディーさ。たまには品無くはしたなく。それを忘れちゃあいけないよ」
「...大事にはしてるつもりなんだが」
「はぁ。これだから若造なんだよ君は。
君には女性へのおもてなしというのを頭にも身体にも教え込まなければいけないようだね?」
サラトナグはアレストの首筋を人差し指でなぞり、顎を持ち上げる。
余程はしゃいだのか彼の首筋は僅かに汗ばみ、しっとりと指を受け入れた。
アレストは逆らいはしないが、睨むように自身よりも低い位置の挑発的な目を見やる。
サラトナグの、普段は優しげに垂れている目が怪しく光っている。くつくつと小さく笑い、最後にまた首を撫で手を退けた。
どうだ、と言わんばかりに触れていた手で自らの頬を撫で微笑む。顔を傾け様子を伺う為視線を上げた。
しかし、そこには何やら【買ってやる】と示すような吊り上がった紫の瞳に唇。
あれ、これはいつもと違うのでは。
まるで酔いが覚めたかのように、サラトナグは細めていた目を開く。ちょっと待って、という静止の言葉が出る前に勢いよく肩を掴む筋肉質な腕。
細い肩に痛い程の力。男性らしい筋張った手。押されるがまま、身体ごと壁際に追いやられる。月は雲で顔を隠し、明かりが大きく遮られてしまった。
サラトナグからは影になりアレストの表情がよく読み取れない。紫の瞳が星明かりで僅かに光り見えるのみ。
「ア、アレス...?どうしたんだい...?」
何時もは軽くあしらうか、うざったそうに睨むか、あるいは少し前までは狼狽えるだけだったのに。予想を超える行動に声が震える。
「俺の女をあんたが甘やかすからよ。
...ちぃっとばかし気が立ってんだ」
唇を耳元へ寄せ、低く掠れた声が反響する。
離れても、表情を伺うことは出来ない。
そして、つい先程サラトナグが行った挑発的な行動を、仕返しだと言わんばかりに繰り返す。
肩を掴む逆の手で、細い首を這い、顎を持ち上げ、そして頬をなぞる。
ただ...何か違うとするならば、誘うような柔らかな手つきではなく、何かを宣言するかのような、強く荒立たしい触れ方。
どちらともなく、ゾクゾクと背筋が震える。
動揺と期待の入り混じった黒い瞳と、怒りと僅かな熱のある紫の瞳。
どちらが魅入らせどちらが魅入ったなどもうどうでもいい。夜を唄う虫の声も、遠くにいるはずの人の声も、何も聞こえない。鼓動と吐息の薄い音だけが耳に届く。
月が、雲から顔を出す。
それと同時に、アレストから逃げる様にサラトナグが視線を地へ逸らした。頰に寄せられたアレストの熱い手のひらに、身を委ねる。
再び、強制的に、乱雑に、男の手が青年の顔を見上げさせた。月明かりに照らされる見上げた顔は僅かに紅く、黒い瞳は揺らぐ。
ケラケラと笑う何時ものどの顔とも違い、怯えている様にも見える程。
その黒い瞳に映り込む、勝ち誇った様な、見下す様な紫。
とうの昔に肩を掴む手は離れていた。
四肢を縛られようが無力な人間一人を殺す位どうとでもできる精霊が、逃げもせず追い詰められている。
顔を片手で見上げさせ、もう片腕を精霊の細い腰へと回す。一瞬震えた気がしたが、構うことはない。更に壁へ詰め寄り、人間よりも一回り小さい身体を腕の中へ納める。視線が外れることはない。
アレストは、サラトナグの黒い瞳に映る自分の顔を見る。なんと残虐そうな顔をしているのか。しかし、気分が非常に良いのも確かだった。これが。これが勝利というものなのか。
今までにない程口角を吊り上げて、出したことがない様な声色で。静かに、重く。
「それで...何をご教授頂ける?はしたないレディ」
「...まいったよ。僕の負けだぁ。もう好きにするといい...」
高らかさとは程遠い勝利宣言に屈服したサラトナグは、ぐったりとアレストに身を預ける。ニヤニヤと笑いながら、アレストはぐずる頭を撫でてやる。
「生憎そういう趣味は俺にはねぇんだよ。あんたを躾けれるんならそれでいい」
「躾けなんて言うなよぉ。くそぅ。甘く見てた。本当に人間の成長は恐ろしいよ...」
余程悔しいのか涙目になりながら、ぶにぶにとアレストの頬をつつく。その様子は兄に甘える弟か何か、何にせよ数百年生きた者とは到底思えない。
その情けない光景を微笑ましげに笑い、アレストは未だにごねるサラトナグを横抱きにする。軽々と、とまではいかないが至って普通に持ち上がるサラトナグの身体に細過ぎやしないか、と疑問を抱くが、それは頭の隅に追いやった。
「わわっ!なんだいなんだい。びっくりするじゃないか」
「すまねぇな、あんたが女性はお姫様だと思えって言ってたからよ。これでいいか?ワガママ姫よぉ」
「ああ...ふん、中々わかっているじゃないか。いいだろう!お部屋までエスコートをお願いしようじゃないか!」
自分の言っていたことを覚えていたのが、あるいは実行したのが、はたまたお姫様扱いされたことがか。理由は定かではないが簡単に機嫌を直す。なんてチョロいんだ、と思わずにはいられないが、余計な事を言うとまた機嫌を損ねる。アレストはため息をつき、ワガママでご機嫌な青年を見る。整い過ぎているほどの顔立ちだというのに。
「あんた、本当に黙ってりゃ美人なのにな」
「...機嫌がいいから褒め言葉として受け取っておくよ。ふん!また今度こんな事したら責任取りなよ!」
「責任?」
「抱くか抱かれるか覚悟しておくんだね!閨にまで持ち込んでしまえばこっちのものなのさ!」
「はぁ...へいへい、気をつけますよ」
「くそう...もう油断しないぞ...絶対に勝ってやる...」
「...多分無理じゃねぇかなぁ」
夜が更ける。そんな、平和なひととき。
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おふざけQ&A
Q.サラトナグさんはいつもこんなにちょろいの?
A.欲求不満ゲージが高くなるとどんどんちょろくなります。現在は相当ちょろい状態です。余程アレストさんを気に入っている様子です。
Q.何でアレストさんはこんなに防御力高いの?
A.彼もまた選ばれしイケメンだからです。追われる迫られるのに慣れきっているクソイケメンなので、簡単には陥落しません
Q.アレストさんホモじゃねえの?
A.ホモじゃないですが、正直美人なら男もイケる口です。
やはり彼もまた美しいものは好きなので、サラトナグさんの顔面は好きな様です。まぁよく似た王女に一目惚れしてる時点で...
彼がサラトナグの誘いに乗らない理由は、【類い稀な自分よりも美人な男が自分に必死になっているのが面白いから】です。この時点でサラトナグさんに勝ち目はありません。楽しんでいます。
Q.こいつらデキてね?
A.ええまぁ、何も言えねぇ。
本人達にはおちょくりあいの駆け引きのしあいです。イケメン同士の御遊戯は、どっちが先に堕ちるか、が大ブームのようです。
Q.もしCP成立するならアレサラ?サラアレ?
A.どっちでもとってもいいと思うんですよぉ