こどものひ 11サラと面談
11歳のサラさんとアレスト君の面談
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次にやってきたのは少々落ち着きのない中くらいのサラトナグ。ソワソワと部屋を見回し、あまり目を合わせようとしてこない。
雰囲気としてはまるで少女のような淑やかさがある。可愛いと言うと照れたように微笑み、今の当人とは似ても似つかぬ恥じらいを感じる。
「改めて、アレストだ。よろしく、サラ」
「よろしくお願いします、アレスト。
ぼくは、サラトナグ。11さい。です。好きな物はお花とあまいものと、おかあさまと、パパ。
...あってる?」
「合ってる合ってる。凄いな」
「へへへ、そっか。やった。簡単だね、わかりやすい」
「わかりやすいのか...」
「そんなに、かわらない、かな。使っていたことばと」
褒められた事が照れくさいのかにこにこと笑い、嬉しそうにしている。
『今日は、いい天気、です』
「...今日はいい天気です?」
「せいかい!よく聞けば、きっとわかるよ。ぼくの、ことばが、元みたいだから」
楽しそうに笑う少女のような小年が、簡単な文章をつらつらと述べていく。この国での共通語と世界での共通語。この国には二種類があるが、確かにこの国での共通語は精霊達の言葉によく似ているらしい。発音の仕方や音が多少異なれど、雰囲気で何処と無く理解ができる。もちろん、目の前の聡明な小年がわかりやすい文章を話している事もあるのだろうが。
「すごいな、結構わかるぞ」
「ほんとう?ぼくも、わかってきたよ。ありがとうございます、アレスト」
「こちらこそ、助かる。ありがとう、サラトナグ」
「えへへ...嬉しいな」
撫でてやると本当に嬉しそうに擦り寄り甘えてくる。なんと幼気な少年なのだろう。当然のように幼い姿も今相応に美しい少年は、ふとじぃっとこちらを見つめてくる
「どうした?」
「ねぇねぇ、ごほうび、あるの?」
思わず寒気がする。おまえもか?真意がわからない真っ黒な瞳を見つめ返すが、少年はアレストからの返事をただただ待つ
「...何が欲しいんだ?」
「なにがあるの?」
「やってあげれる事なら、なんでもだ」
「...わかんない。決めれないよ僕。ごめんなさい」
酷く申し訳なさそうに俯いてあやまる。怯えながらこちらの様子を伺う少年に、優しく声をかける
「いいんだ。無理しなくていい。なんでも言ってくれればいいんだ。誰も怒らない」
「...怒らない?」
「ああ」
「何でも許すの?」
「...どうした?」
「ううん、なんでも、ない」
少年は何かが気に障ったのか、急に不機嫌になったようで、目の前に置かれていた果物をもそもそと食べ始めた。べたべたと果汁が溢れ口元と手が汚れる事も構わずに食べ進める。
青年は少年が汚れないように急いで布を用意するが、そんな青年の姿にも何も思わないのかガツガツとさらに勢いよく食べていく。
急な行動に驚きながらも甲斐甲斐しく側により垂れた果汁を拭ってやる。それにも何か不満なのか、つまらなさそうに目を逸らした
「サラ?いきなりどうしたんだ」
「なんでも、ないです。おなかがすいたから」
「さっきまでお行儀よかっただろ。何か嫌な事があったか?」
「...べつに、ないです。アレストは、いい人だから」
「...いいんだぞ、何でも言って。甘えて」
「あまえてる!!あまえてます、沢山あまえてる...甘やかしてる...の...」
「お、おい、泣くなって。どうした?俺が何かしたか?どこか痛いか?」
ぽろぽろと瞳から涙を音なく流し、声を上げずになく少年。慰めようと頭を撫で、どうした、と聞いてもなんでもない、としか答えない。
かなり前の話ではあったが、青年はこの精霊の過去の話を聞いていた。母親に殺されかけ、その母親を殺し、父親に母親の代わりに愛されていた、と。
様々な理由を考える。何故、いきなり泣いたのか。自分で何も決められない、ごめんなさい、と言った。何でも許す、と言ったら泣いた。何も悪い事は言っていないように思えた。
今、この少年にとって、自分はどんな存在なのだろう?両親以外で初めて出会う人間なはずだ。怖い、だろうか。いや、助けて欲しいのかもしれない。自らこの道を選んだとはいえ、それがこの子供にとってしたい事だったのか。最善の道であり最良の道であったのか。
甘やかすのは、父親がやってくれたのだろう。母親も、甘やかしてはいたらしい。
甘やかして、欲しくない。けれど、自分では何も求められない。
泣いているのは、本人なりの、わがまま、か、駄々か、精一杯の自己表現か。
そこまで考えて、一つ、思いついたことがあった。もし外れたら更に泣かせる事になるかもしれないが、そうなったら仕方がない。何より、別にコレは一人の子供ではなく、既に一人、として完成された意思の欠片でしかないのだ。心の中で、一人、として扱っていない自分がいる事にも気がつくが、自分は世話を頼まれただけで情操教育を託されたわけではない。
なるようになれ、である。
頭を撫でるのではなく、頰を両手で挟み込み、こちらを向かせる。じっと眼を見れば、あまりにも少女らしい、女性らしい瞳で泣いているのだ。
「泣くんじゃない。男の子だろ」
そういってやれば、みるみるうちに涙は引いていき、笑みが戻る。
「いいか、ごはんも行儀よく食べるんだ。汚すんじゃない」
「...はい!」
「よし、いい子だ。いいな、行儀悪いことしたら、叱るからな。容赦しないからな」
「おこるの...?」
「...ちょっとだけな」
「お、おでことか、べちって...」
「おうするぞ。でこぴん、するぞ」
「でこぴん!!!わぁ!でこぴっ!ん!」
自分から前髪を上げ、眼を瞑りながらおでこを差し出す少年。怯えているのかなんなのか少々震えているが、口元は笑っている。
「おら〜でこいくぞ〜、痛いぞ〜痛いぞ〜」
「わぁぁ...おでこ...でこぴん...」
叱られる、という行為に憧れているのかもしれない。まさかこんなことで喜ばれるとは思わなかった。
少々心を痛ませながらも、わくわくと痛みを待つ少年に、弱々しい、でこぴんをした。