一人ぼっち
僕を育ててくれた彼女は死んでしまった。
人間は、すぐに死んでしまうし。信仰の加護が薄い。僕は人里を離れることにした。
森の中に住む、精霊の女性に出会った。名前は〇〇〇〇。今度は息子としてでは無く、恋人として彼女と付き合うことにした。
彼女は僕を大事に扱ってくれた。僕も彼女を大事に扱った。
彼女は子どもが欲しいと言った。作った。
彼女は僕を愛していたはずなのに、子供にばかり構う。何故かと問えば、僕の子だから、なんていう。意味がわからない。それは僕じゃない。僕を愛してくれるといったのに。だから僕も愛したのに。彼女は僕に必死に謝ったが、それもよくわからない。
子を捨ててでも僕と共にいたいと彼女は言った 。子を捧げられるのかと聞いた。出来る、と言った。
彼女はあろう事か僕に子を捧げた。何をしているんだ。僕に捧げて何になる?訳がわからない。叱ると泣いて謝ってきた。もう何を言っても怯えている。もう駄目だ。何度あやしても泣き止まない。
仕方がないから、ずっと一緒にいてあげることにした。彼女は嬉しそうだ。
美しい僕と美しくない君との娘、イェルミ。可愛らしい。
イェルミは僕のために何でもしてくれるが、何でもはできない。彼女に出来ることは、せいぜい疲れを癒す香りを出したりする程度。それでも十分助かるけれど、この島はちょっと荒れている。自衛ができない。
僕は恐ろしく大地の魔法が下手くそだ。戦えないのだ。練習しても、多少岩を隆起させる程度で、おままごとみたいなものだった。
僕を守ってくれるのは、か細い蔦と、サラと、イェルミだけ。幸い、僕はまだまだずっと美しい。守ってくれる人を探した。
彼女の家で、一人で過ごしていた。娘と、僕を交わらせて、誰かを父に、誰かを妻に、僕を嫁に、娘を妻に、ひたすらに交配を重ねた。庭は僕の娘達でいっぱいになった。
晴れた日、家の近くに人間の男が倒れていた。せっかくなので娘達で持ち上げてみると、僕では持ち上げられない大きさの男が持ち上がった。僕は決して変化していないけれど、娘達はとても逞しく育っている。
男を手当てした。彼は目を覚まさなかったので、色々と試した。僕の種子を彼に喰わせた。胎内で発芽させた。根を張り巡らせた。
彼は毒草を誤って食べてしまった様だったので、巡らせた根で、強制的に嘔吐させた。根から毒を吸収することもできた。
彼とは言葉が通じなかったが、何とか意思疎通をした。彼は逞しい人間。久しく誰かに会っていなかった僕は、寂しさで、彼に甘える事にした。
彼と過ごしてしばらく経つと、彼の仲間だという人間が森を荒らしにきた。
彼らは森を開発するために調べにきていた人間達だった。彼らは僕の庭を荒らした。草木を燃やし、踏みにじり、殺した。
だから僕も殺した。精霊の庭に入って来る方が悪いのだ。大いなる母の娘を殺した罪人として、贄に捧げた。
彼は、僕に命乞いをした。それでも僕の怒りが覚めないので、殺される前に僕を殺そうとした。僕を甘やかし愛した腕で、殺そうとするのだ。悲しかった。
彼に植えた僕で、彼を殺した。彼の命を吸った僕は、香りや効能ではなく、より強靭な娘を手にした。贄を捧げたからか、僕の力は増していた。
大いなる母は、いつでも僕を愛してくださる。
裏切ることはなく、殺そうとして来ることもなく、いつでも僕を守ってくださる。
誰と出会っても、皆僕を置いていく。一人にしていく。僕は大いなる母だけに守られている。
一人ぼっちで、また暮らす。人間達が僕を追い出すまで、ずっと。
故郷であるリード島は、その殆どが、僕の娘達に覆われた。
一人ぼっちで、一人じゃない。一人じゃないのに、一人ぼっち。
さみしい