ほうさんのお国柄

企画参加用創作ブログ。絵は描けない。文のみ。お腐れ。色々注意。

本編5:サラとアレスのお仕事

荷馬車が大きな街の正門に着いたのは、完全に日が落ち、夜行性の動物たちの鳴き声が森から響く頃だった。いつもと同じ眠らない街ルーダは、騒がしく二人を迎える

 

 

「さて...じゃあ僕は王城に行こうかな。君は宿屋に先に行くといい。明日の朝、管理局へ行ってくれ」

「こんな夜に?王への謁見じゃねぇのか?」

黒髪の青年サラトナグは荷台からひょいと降り、自分についた牧草を払い除ける。御者台に乗る茶髪の青年からメモを受け取り、自分の至る所が跳ねている髪を気休め程度に整えた。

「今でも夜間の警備隊がいる。事情を話して、正式な認可を受けるには警備隊で十分さ。王は実質的な権利を持たない。会ったところで意味はないよ」

「マジかよ。結構女王様を見れるの期待してたんだがよ」

「おや、ああいう女性がタイプかい?」

「おう。いいよなぁ超美人の鬼。すげぇ好み」

茶髪の青年アレストは、顎の下に手を置き頷く様に考える。現ルウリィド国の国王は、鬼と精霊のハーフである鬼の女王。凛とした顔立ちに優し気な眼差しが特徴的な女性である。

「母君も美人だよね。わかるわかる」

その母親は鬼であり、王とともに王城に住んでいる。今ではもうかなりの高齢ではあるが、かつての美貌と気品を感じさせる佇まいだ。

「確かにな。でも俺は母親はそんなでもねぇな...王女の目が好きだ。母親とは違う優しそうな...優しそうな目?」

ふと、既視感を覚える。馬車の傍らに立ち、自らより背の低い青年の目をジィッと見つめる。

「ん?どうしたんだい?見惚れたかな?」

「いや、おい、ちょっとまてよ。母親は鬼だろ?じゃあ父親が精霊か?」

「そうだね。制定上そうなる」

「な、なぁサラ。あんた、王女の父親知ってるか?」

「もちろん。公表されてないけどね」

「目...」

「ん?ふふふ、どうしたどうした若者よ。おやおやぁ?失恋?失恋でもしたかい???」

「あんた、俺が王女様の事好きなの知ってんだろ...くっそ...もう王女で抜けねぇ...」

「あっはっはっはっは!!!君は僕の瞳が大層お気に入りだったみたいだねぇ!!!至極光栄さ!!!」

「もういい...行ってこい...」

「はっはっは!かしこまったよ!いやはや、今度慰めてあげようじゃないか...くっくっく、そんなにショックを受けるかい?」

 「こちとら王女に一目惚れしてんだよ...くそ、よく見りゃあそっくりじゃねぇか...」

「そうかな?僕は会ったことがほとんど無いからわからないなぁ。はっはっは」

一人はやけに機嫌が良く、一人は項垂れたまま、街の夜に消えた。

 

街の中央、一番大きな通りの最奥地。王の住む立派な王城は静かにそびえ立っている

「王城...何年振りかな、来るのは」

門の前で高い王城を見上げるサラトナグ。出入り口が閉まっているということは無いようだ。

場内へ踏みいろうとした時、背後から声がかかる。女性の声だ。澄んではいるが、決して優しげでは無い声。冷たささえ感じる。

「こんな夜更けに...何用でござろうか」

「これは失礼。夜間警備の方かな?

私、明勲精霊サラトナグ・ルーダー。同じく明勲精霊であるルートグラン・ルーダーが消息不明という事で、情報提供に参った次第だ」

足音1つ立てずに現れた人物に、深々とお辞儀をし名乗る。そこにいたのはすらりとした長身の女性だった。顔は殆ど布で覆われて見えない。目だけが辛うじて見える状態のその女性は、国内では珍しく武器を所持しているのが見て取れた。急所を守る防具も身につけている。城の警備に当たっているのだろう。

 

「これはこれは、サラトナグ殿。失礼致した。ご協力感謝致す。

拙者はキリカと申しまする。この城の夜間警備隊長兼女王の身辺警護を任されている妖怪でござる。以後お見知り置きを」

こちらもまた、深々と頭を下げた。キリカと名乗った女性は、装備品を黒一色にし、少し目を離せば闇に溶け込み見失うかという程、気配無くそこにいる。サラトナグは握手を求めようと手を伸ばすと、僅かに後ずさった

「...サラトナグ殿、申し訳ない。拙者、男性が少々苦手でございまして...ご容赦いただけるでござろうか」

「おおっと、それは失礼。気にしないでくれ。様々な事情があるだろうさ」

差し出した手を胸元へ戻し、もう一度軽く礼をする。胸元からルートグランがいるかもしれない場所のメモを取り出しキリカへ渡した。

「ご協力感謝致す。捜索にサラトナグ殿が、というのは...」

「遠慮したいね。それより僕は別件で動きたい」

「別件というと...商人達の方でござろうか」

目しか見えないにも関わらず、目に見えてわかる程に殺気立つ。別の種とはいえ、同じ妖怪の異質な眼球が出回っている、という話だ。気分がいい訳が無いだろう。

「やはりご存知かい。今商人管理局の方で噂になっている不審な品の件、正式な捜査をさせていただきたい。その時にもしルートグランに会えば知らせよう」

「...なるほど。では商人達に伝え、国としての問題に引き上げるように致す。状況の整理が出来次第、この件はサラトナグ殿にお任せする事になるでござろう」

「よろしく。何かあれば城下の商人アレストへ頼むよ。彼なら多分、僕の場所もわかる」

「存じております。彼に貴方様への伝言を頼んだのは我々でござる」

「ああそうだったね。今度彼に王から直々に褒美でもやってやってくれ」

「貴方様が渡しても同じでは?お義父さん、として」

「くくく、なんだ、見ていたのかい。いい趣味じゃないか。どこから?」

「街の入り口から、でござる。気づかれなかったでござるか」

「敵意がないなら気づかないね。君も相当の腕利きのようだし。ふふふ、これからよろしく頼むよ」

「仰せのままに、明勲」

 

キリカは跪き、サラトナグへ頭を垂れる。すると徐々に風景は揺らめき、水に溶けていくようにキリカの姿は消えた。

「幻術かい、キリカ。いい腕だ。

僕達は明日、また街を出る。怪しそうな場所があれば叩きに行く。南東の泉周辺にいるはずだ。何かあれば来るといい」

 

誰も見えない夜に述べ、サラトナグは王城に背を向け宿場町へ向かう。周りには人影は1つもなく、囁く程度の声さえしない。

「ううん、幻術で消えたのか、彼女が幻術だったのか...わからないな。いやはや、愉快愉快」

 

その足取りは、軽い

 

 

 

 

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ここからは国内をフラフラして怪しいものを探すターンですサラトナグとアレストの感覚はだいぶ掴めてきました。

 

新しく女性のキャラクターです。仲間になりますが、正式な参加はまた後ほど。

妖怪アスラーンの女性で、忍者もどきの暗殺者です。今後彼女はギャグ要員(ボケ)と安易な下ネタ担当になる予定なのできっと今回みたいなちょっとかっこいいシーンはこれで終わりです。