ある日海底洞窟の中くまさんに出会った
ある日海底洞窟の中くまさんに出会った
かつん、かつん。音が反響する暗い洞窟。ぼんやりと発光する鉱石を持ち、一人と二匹が歩む。
がりがりと地の岩肌を削る音を立てて、その者が押した薄汚れた扉のようなものは、開かれた。
『っ、だ、誰だっ!?』
「…?」
その扉の中には光があった。歩む人物が持っていたものに酷似している、発光する石。それが至る所に置かれている、部屋と呼んでも差し支えのない場所だった。それでも薄暗いその場所は、一体何があるのかはよくわからない。
しかし、その中にいた一人の人物は、扉を開けて入ってきた一人と二匹に明らかに警戒しているようだった。
『どうして、ここに、誰かがくるんだ』
「…、……、けほっ、…」
『…喋られないのか』
「(こくり)」
『…ここは、お前の場所か』
「(こくり)」
『そうか。なら、邪魔をした。すまない』
「(ふるふる)」
『僕は少し、ここで休ませて貰っていた。この辺りでは一番、魔力が濃かったから。死体がないのもありがたい。少し休んだらすぐに出て行こう』
「…」
二匹の狼が、警戒するように唸る。流暢に精霊の言葉を話す、部屋にいた人物に対してだ。
「…だ、め」
『音が出ないだけか』
「(こくり)」
狼の頭をなで、宥める。声を発する事のできない狼を従える者は、背負っていた荷物をガサガサと漁り、ボロの紙切れと、インクの入っていると思われる筒を取り出し、すらすらと文字を書いた
【ここは俺の七十二個目の家】
『…お前はここに詳しいのか。ここで見つけた、家のような場所は、全てお前のものか』
【俺たちのもの。使うのは構わない】
『そうか。それならよかった』
【貴方は何?追いかけていた。追いついた。昔からいる。一体誰?】
『…訳あって、ここで、その、歴史の研究をしている』
【俺はここの管理を任されているが、そんな話は聞いたことがない。いつから?】
『わからない。ずっと前だ。というのも、出るに出られないのだ。魔力と瘴気を喰らって生き続けているが、いつからいるかもわからない』
【迷子】
『…そうだとも』
【案内しよう。外へ。気が向いたら声をかけてほしい。しばらくこの辺りにいる】
『…いいのか?』
【迷子を助けるのが仕事。俺より前からここにいるのは明らか。俺は何もしてはいけない。難しい事はわからない。上に出たら、サラトナグ様を頼ればいいと思う】
『サラトナグ?』
【知っていると思った。あなたによく似ている匂いがする方。すぐにわかる。】
『…なるほど。わかった。ありがとう。お前の事は何と呼べばいい?』
【ゴズ】
『わかった。ゴズ、感謝しよう』
【あなたは?】
『…昔は、サラ、と呼ばれていたよ』
【覚えた】
『そうか』
【あなたは不思議な魔力だ。落ち着く。側に行ってもいい?】
『…その獣を落ち着かせて、危害を与えないで、無駄な詮索をしないというのなら、その要件を飲んでもいい』
【わかった】