ほうさんのお国柄

企画参加用創作ブログ。絵は描けない。文のみ。お腐れ。色々注意。

窓辺の不老花、想い尊ぶ情景花

クリスマスのプレゼントで、キナコ君から頂いた不老花の、お返し?です。
すいません、シリアスになってしまいました。でもこれはサラさんが思っているだけの事ですので…本当に、温かい品物を、ありがとうございました。サラさんが夢見て作り上げた、美しく穏やかな花畑の情景を、春の暖かさを、冷え込んでいる冬にお届けできたらよいなと思います。よいクリスマスを!
 
 
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同じ花だ。そう思った。
 
手記に挟まれた栞。可愛らしいパンジーの押し花。差し出してきた少年の顔は、今でも鮮明に覚えている。
 
 
少年のことを思い浮かべながら、おくられた花をみる。どこかに、つながっているのがわかる。
ここではない、どこか。僕の母とは違う加護。純真な…
 
「…」
 
命と結い繋がれた花。どことなく、小さな手が、思い浮かぶような。
ああ、いいや、自分の手を見てみろ。僕の方が、よっぽどちっぽけだ。
 
僕は、触れる権利なんて、持っていないのかもしれない。
 
決して枯れない僕の世界に、枯れることを許されない紅葉の景色を背後に、硝子越しに笑う美しい花。凛としたたたずまいでは、ない。決して、気高い、品格のある、花では、ない。
もっと身近で、すぐそばで、笑み、冷えた手を、温く覆ってくれるような。そんな…
 
体温というものを亡くした僕の手が、触れたいと。そう言っていた。
 
「…いい?」
 
なぜこんなに、躊躇うのだろう。僕の手が、花を傷つけるわけがないのに。美しい女性たちを傷つけたことは一度もないのに。
 
なのに。
 
 
こんな僕の思いなんてなにも感じてないと言わんばかりに、その花は頷いた。ような、気がする。
 
ああ、そう。花だ。暖かい花だ。この子は、僕に恋し、僕を愛し、僕に触れられることを悦ぶ女性たちじゃない。
 
 
この子は、友達だ。幼い僕の友達だ。一度も出会ったことなんてない。一度も一人も僕にいたことのない、ともだち。
当たり前のように手を伸ばし、笑い合い、高め合い、尊敬しあい、壊してしまうことを恐れることのない、無垢な、ものだ。
 
不安定で、頼りなくて、揺らいでいる。でもその揺らぎは、巨躯が綻び砕け崩れ落ちてしまいそうな揺らぎじゃない。小さなものが、手を伸ばして、背伸びして、天を仰いで、ふらふらと一歩ずつ、少しづつ、歩んでいく揺らぎだ。
 
 
情けない事この上ないじゃないか。かっこ悪いじゃないか。こんな、今更、意味もない涙を流して、どうにかなるわけでもない過去に縋っているなんて。こんな僕をあの子は知らないんだ。あの子は、僕を見て、僕の作ってきたものを見て、決して、穢れた僕を、見なかったのだ。
あの少年の中にいる僕は、もっと、気高くなくてはならないんだ。それを僕がどれだけ虚構で醜いものだと罵ったところで、何の価値もない。意義がない。大いなるものは望まない。決めたじゃないか。より美しい世界を、より平和な世界を作るための犠牲は惜しまないと。僕がみっともなく苦痛に嘆いているという事実は、後の世にとって、まったくもって不要な物だ。僕が僕であるという事実は、必要ないのだ。
 
強くあろう。造った物を、守ろう。遺していこう。できうる限り、命ある限り、続く者たちの養分となれるように。より、よいものであろう。
 
 
 
 
 
僕の夢の形。決して枯れない花。僕一人を残して枯れてしまうのが寂しくて、ずっと、縛り留めつづけた花。
ちがうんだよ。望むべきは、枯れぬ花じゃない。何度枯れても、また、春とともに咲き誇る花だ。そんな、強い花なんだ。
 
僕が信じられなかったんだ。きっとおいて行かれると。失われたものは戻ってくることがないと。
僕なんかの元に、戻ってくるわけがない。だから、縛りつけたんだ。僕が弱かったんだ。
 
そんな過去の贖罪の形なのかもしれない。僕の永劫の花畑は。でも。それでも、
 
「それでも、あの花々は、何よりも美しい」
 
僕の望みの形なんだ。僕の全てが詰まった、恵みの大地。苦しさも、悲しみも、すべてが存在しない、春の世界。美しく平和な世界なんだ。あの箱庭の中でしか僕は作れなかったけれど、もしも、世界中が、そんな世界になったのなら。
何度憎悪の炎に焼かれても。何度悲劇に凍てついても。それでも何度だって、立ち上がり、咲き誇ることのできる、強い、もの。そんな本当の美しい世界が、訪れるのなら、何よりも素晴らしい事じゃないか。
 
…ああ、訪れるなんて、言ってしまうんだね僕は。そう。僕にはもう作れそうにないんだ。僕は、もう、待つしか。願うしかないんだ。僕はもう高い空を見上げることはできないんだ。飛び立つことはできないんだ。大地に身を埋めたんだ。僕の最期の仕事は、次の芽が出るまで、この場所を護ることだから。
 
 
でも、どうだい?君は違うんだ。君にならできるのかな。できるかもしれないな。…ふふ、わからないな。僕たちは永く生きる。僕や君じゃないかもしれない。もっともっと、後の時代なのかもしれない。いつ、なのかは、わからない。
 
でもだからこそ、僕らは地を耕し、種を植え、紡ぎ続ける。そのいつかを、見守り続ける。僕らは、何よりも、誰よりも、世界そのものの望む世界を知ることができるんだ。僕たちは忘れてはいけない。僕たちだけは永遠に憶え、伝え、願い、信じ続けなければいけない。
 
 
無責任なことをしてしまうね。ごめんね。勝手に、君の中に希望を見てしまったんだ。清い想いに、僕の憧れを重ねてしまったんだ。
外なる地に想いを託すなんて、大いなる母様が聞いたら怒るかな。…ううん、そんなことはないね。だって、平和への、大事な種なんだもの。
 
 
僕の描いた夢の形。平和の形。春の風、花の香り、蜜の微睡み、陽光の温もり、大地のささやき。
ほんと、年寄りってどんどん図々しくなっていくって笑っておくれ。押し付けるようになってしまうね。それでも見てほしいんだ。知ってほしいんだ。僕の努力の全てを。美しいものだけを。
 
僕の涙なんて知らなくていい。僕の苦痛なんて知らないでいてくれ。僕のこれからなんて、僕の終わりなんて、君は知らなくていい。
ただ。僕の、いちばんを。一番の僕を。その一瞬を。君の中で残る僕だけは、かっこいいままでいさせてくれ。
 
…かっこいいかどうかはわからないか。君がこれを見てどう思うかは、僕にはわからないことだ。でも、それはそれでいいんだと思う、どう思われたって。だって僕が勝手に託してしまう想いなんだから。
 
でも少なくとも、僕は、この花に、救われたような気がするんだ。もうすこし頑張っていけると思うんだ。だから、僕は、僕の全力をもって、応えたい。
 
 
 
木のバスケットに、布を敷いて。魔力を、手のひらに。
 
君は本当に、魅力的だったよ。光り輝いていたんだ。もしも僕が幼いころに君に出会えていたなら。僕は君にあこがれて、君について行こうとして、閉じ込められていた檻から外へ出ていたかもしれないな。
 
そんな事を思いながら、魔力を固め、花を一つ一つ、形作る。赤、ピンク、白、黄色、紫、オレンジ。色とりどりの、ラナンキュラス。バスケットにいっぱいになるまで満たし、上からまた金糸をあしらった白布のハンカチを掛けて、崩れないようにリボンで結んだ。
 
 
 
僕の花畑の情景を込めた、籠一杯の情景花。ああそうだ、使い方のメッセージを添えておかないと。…でも、僕のメッセージは、これそのもの。不要だと、勝手に思うことにする。
 
 
願わくば、僕が生きているうちに、この不老花が枯れてしまいませんように。
それとも、もし枯れたとき、彼の思い描いた世界を、少しでも僕も見ることができますように。
 
どちらも大いなるものの意思のままに。僕が決められることではない。だから僕は、ただの、僕という個体として、君のこれからの幸福を、祈る。